第41話:スメハラ?
ここから第三章(41話~60話)となります。物語のテンポは非常にゆったりとしていますが、今後も同程度のスピード感で進めていきますのでのんびりとお楽しみください。
九月も残り僅かとなり、今月末に行われる体育祭がいよいよ目の前へと迫ってきた今日この頃。そんな中で私たちは今、グラウンドでソフトボールに興じていた。
「喰らえ!必殺のスピンボーール!!」
「はい、ボール。新地君、また四球ね?」
「はぁ?何でだよ?!今のは流石にストライクだろ~がよぉ~~?!」
スポーツ好きの男子たちが、実に楽しそうにプレーしている。そんな男子たちから遠く離れたグラウンドの隅っこでは、女子たちがお喋りしながら適当にキャッチボールをしている。
「いやぁ~、やっぱ体育の授業は球技に限りますなぁ~」
「そうですなぁ~」
「ダンスの練習もいい加減飽きたし、偶にはこういうのもいいよねぇ~」
全学年による全体ダンスについてはともかくとして、クラス対抗の学年ダンスについては既に形になっている。他の種目についても基本的には順番を決めるくらいなので、そこまで練習の必要はない。
そんな理由もあってか、本日の私たちの体育の時間はこんな風にゆるゆるの空気の中でソフトボールが行われていた。ヤル気があるのかないのかいまひとつ判断に困る有能な体育教師によって、その判断はなされたのである。
「う~し、時間だぁ~~。道具を片付けたら一旦集合しろ~」
「「「「「は~い」」」」」
体育教師の指示通り道具を倉庫へと片付けて、私たちはグラウンドの一角へと集合する。
「お前たちも知っての通り、今週末には体育祭が行われる。で、だ・・・。今日の放課後から部活動は一旦中止、放課後には入場だの整列だの、ちょっとした全体練習が行われる」
「「「「「うげぇ~」」」」」
皆、心の底から嫌そうな顔をしていた。ウチのクラスにも運動好きの子は勿論いるのだけれど、そんな子たちはどっちかというと部活をやりたいだろうしねぇ~?
「全体練習は配置の確認だけだし、体操服に着替える必要はない。だけど、汗はかくかもだから着替えてもらっても構わない」
「「「「「・・・・・」」」」」
「ま、そんなわけだから、遅れるなよ?」
「「「「「は~い」」」」」
そうしてゆるゆるの体育の授業を終え、私たちは更衣室へと向かう。
「いやぁ~、まだまだ暑いねぇ・・・」
「そうだねぇ・・・」
女子更衣室の中は制汗スプレーだのデオドラントシートだの、様々な制汗グッズの香りで溢れ返っていた。それは私がまだ男子だった頃には無縁のモノであり、それらが混ざり合った独特のにおいは私の頭をクラクラとさせた。
「どうだい夏姫ちゃん、お胸は育ったかい?ちょ~っとお姉さんに確認させてみ?げへへ」
下着姿のままの田辺さんが、そう言ってブラトップ入りキャミソールの上から執拗に私の胸を揉んでくる。
「おぉ~、これは・・・」
「どうです桜の旦那!夏姫ちゃんのお胸は!!」
「ほんのちょっとだけ、育っているかもしれない!!」
「「おぉ~~」」
なお、私の胸部は誠に残念?なことに、今のところ大きな変化は見せていない。彼女がその手で揉んでいるのはキャミのカップ部分であり、それはつまり、虚無なのだ・・・。
「あの、そろそろ着替えたいんだけど?」
「おおぅ、そうだね。あんまり遅くなると、先生に怒られちまうぜい」
女子特有の過剰なボディタッチにも、慣れた。目の前で下着姿を無防備に晒すクラスメイトの女子たちの姿にも、慣れた。
「雪花はどう?お胸は育った?」
「いや、全然。そういう彩音っちは?」
「ちょっとだけ大きくなった気がする。この分ならもう少しでBまで行けそう」
「おぉ~」
女子たちの明け透けな会話にも、慣れたかな?うん・・・、ちょっとだけ自信がないや・・・。
「さぁ~て、次の授業は何だったかなぁ~~」
汗を拭い着替えを終え、私たちは急ぎ足で教室へと向かう。そして・・・。
「ちょっと男子ぃ~、汗臭くない?デオドラントシートくらい使ってよぉ~~」
「はぁ~?女子たちの方こそ香水とかスプレーとか、よく分からんにおいのせいですっげぇ臭いんですけど?」
教室の中は、カオスだった。体育の授業中にかいたのであろう汗のにおいと制汗グッズによるにおいが合わさり、率直に言って地獄だった。
「とりあえず、廊下側の扉は開けとこうか・・・」
「うん、そうだね・・・」
男子と女子に分かれて繰り広げられる不毛な争いから目を逸らしながら、私は次の授業に使う教科書へと目を落とすのだった。