第38話:読書の秋
翌日の火曜日の放課後、雪ちゃんは死んだ魚のような目をしながら教室を出ていった。昨日決まるはずだった体育祭の何やらかんやらは結局決まらず、体育祭実行委員の雪ちゃんは本日もその職責を果たすべく強制召集を喰らってしまったのだ。
「雪花、頑張れよ?骨は拾ってやるからな・・・」
田辺さんと伊東さんは、目を瞑り両手を合わせながらそんな雪ちゃんを送り出す。
「さてと、私たちは帰ってゲームでもしますか」
「そうだね。夏姫ちゃんはどうする?」
私かぁ~、雪ちゃんを置いて帰るのも可哀想だしなぁ~。
「私は雪ちゃんを待ってるよ。流石に可哀想だし」
「そっかぁ~。私たちも待っててもいいんだけど、帰る方向真逆だしなぁ~」
帰る方向が同じだったのならば、多少遅くなっても四人でワイワイお喋りしながら帰れたんだろうけど・・・。二人と私たちは家が真反対にあるからねぇ・・・。
「じゃあ、雪によろしくねぇ~?」
「うん、バイバ~イ」
帰路に就く二人に別れを告げ、私は雪ちゃんの机にメモを残して図書室へと向かう。
「あれ、部長?」
「ん?ああ、一色さんか」
私が図書室へと向かうと、そこには既に鈴木部長の姿があった。
「何をしてるの?」
「ん、これかい?これは家読み用の本のリスト化」
そう言って部長は、机の上に並べていた大量の本と一冊のノートを指差してくる。
「放課後の時間に面白そうな本を探して、それをリスト化してるんだよ。で、それを昼休みに借りて、家に持ち帰って読むわけ」
「へぇ~」
そういえば、昨日もノートに何かを書き込んでいたっけ?
「面白そうな本は見つかった?」
「うん、何冊か見つけたよ」
「へぇ~、どれどれ?」
「これとこれと、あとこれも・・・」
部長はそう言って、数冊の本を私の方へと差し出してくる。
「よかったら、ちょっとだけ読んでみる?」
「う~ん・・・。大代さんが来るまではどうせ暇だから、ちょっとだけ・・・」
差し出された本の中で、私は一番薄くて読みやすそうな本を選ぶ。
「・・・・・」
何だろう、部長にちょっと笑われた気がするけれど・・・。ま、いっか・・・。
「この人の作品は、登場人物の心理描写が非常に丁寧でねぇ~」
「へぇ~」
「主人公だけでなくて、ちょっとしか登場しない人にまでちゃんとした設定があって」
複数の本を流し読みながら、時折部長の解説を聞きながら、私は意外にもその時間を楽しく過ごしていた。
「本を借りれるのって、昼休みだけだったっけ?」
「そうだね。先生に頼めば放課後でも借りれなくはないけど・・・」
部長はそう言うと、自身のバックの中から数冊の本を取り出す。
「これ、僕が今日借りた本なんだけど、よかったらどれか読んでみる?」
「え、いいの?」
「うん、期日までに僕に返してもらえばいいし。僕もまた今度借りればいいしね」
部長に渡されたのは、昨日私が数ページだけ読んだ推理小説だった。
「つまらなかったら、そのまま返してくれればいいから」
「うん、それじゃあ遠慮なく」
その日私は、一冊の本を家へと持ち帰った。それは存外面白く、部屋で読書に耽る私を従妹は驚きの表情で眺めることとなったのだった。