第35話:再会
女子中学生三人組のパワーに圧倒されたその翌日、私は駅の改札口へと来ていた。本日は日曜日ということもあってか、その周辺は学生含む沢山の人たちで溢れ返っていた。
「・・・・・」
私のすぐ目の前で、待ち合わせをしていたのであろう学生たちが合流し、各々の目的地へと向かって歩き去っていく。私の実家がある街と同様に、この街も駅前くらいしか遊べる所がないからなぁ~。
「もうそろそろかな」
私がスマホを確認すると、今の時間は午前十時半過ぎ。私は目深に被ったキャップでその顔を隠しながら、待ち人が来るのをひたすらに待つ。
「・・・・・」
そうして待ち続けること更に五分後、私の目の前に現れた懐かしい顔。
「陽介、久しぶり」
「お、おぅ・・・」
「とりあえず、場所を変えようか?」
「・・・・・」
約一月ぶりに見た陽介の顔は、変わらなかった。少しばかり日に焼けた感じはあるけれど、それだけだった。
「「・・・・・」」
無言のまま陽介と肩を並べて駅を出て、そのまま近くにあったファミレスへと私たち二人は向かう。
「急に呼び出してゴメンな?」
席に着くなり、陽介はそう言って頭を下げてくる。
「ううん、大丈夫。私の方こそ色々とゴメンね?」
そう言って、私も頭を軽く下げる。
「「・・・・・」」
私の視線の先で、陽介は明らかに戸惑っていた。今日の私はボーイッシュな服装をしているし、見た目的にはちょっとだけ髪の毛が伸びたくらいでそこまで変わってはいないはずなのだけれど・・・。
「夏樹のことは、親父たちから聞いた」
「・・・・・、そっか。じゃあ、全部知ってるんだ?」
店員さんが置いておいてくれたお冷で口を潤しながら、私は陽介へと問い質す。
「夏樹が女だったってことは、知ってる」
「・・・・・」
「他にも色々と大変だったって」
「・・・・・」
私は、隣の椅子に置いておいたバックの中から夏姫用のスマホを取り出す。
「名前も、変えたんだ」
「・・・・・」
「ほら、これが新しい私用のスマホ」
「・・・・・」
努めて笑顔で、平静を装って・・・。
「夏姫、か・・・。いい名前だな?」
「・・・・・」
「何ていうか、綺麗な名前だ」
「・・・・・、ありがとう」
何だろう、このこっ恥ずかしい何とも言えない微妙な空気は・・・。私は熱くなってしまった頬を冷ますべく、急いでお冷に口を付ける。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
「ぶっ?!」
「うふふふ」
「ごほっ?!げほっ?!」
いつの間にやら、私たちのテーブル横には店員さんが立っていた。彼女は私たち二人に生暖かい視線を向けており、そんな視線をモロに受けた私たちは取り繕ったように早口で注文を済ます。
「話したいことは、色々とあるんだけどさ」
「うん」
「先ずは、知美の件を何とかしたくてな?」
「・・・・・」
僅か十分足らずで届いた軽食を食べながら、私たちはともちゃんの件について話し合う。
「まあ、そんな感じだから」
「う、う~む・・・」
「できれば、近いうちに会ってやってほしいっていうか」
「・・・・・」
ファミレスを出た後は近くのカラオケ店へと向かい、現実逃避のために二人して歌い倒して・・・。その後はゲーセンに行って、あの頃みたいにバカ騒ぎして・・・。
ここ一カ月の中で、その時間は一番気が楽だったように思う。最近は慣れない女友達とばかり行動していたから、気疲れしていたのかもしれない。
「じゃあ、またな?」
「うん」
楽しかった時間は、あっという間に終わってしまった。駅の改札口へと去っていく陽介の背中へと、私は未練がましく手を伸ばして・・・。
「な~っちゃん!!」
「?!」
「いひひひひ」 「うふふふふ」
「・・・・・」
振り返ると、そこには何故かニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた田辺さんと伊東さんの姿があった。そして私は、この件で二人から滅茶苦茶揶揄われることになるのだった。