第31話:とある放課後の風景
その日の授業が全て終わり、暇になった私はいつものメンバーたちと共に図書室へと向かっていた。
「鈴木君、いないね?」
「そうだね。まあ、部長は基本的に家で本を読むらしいし、今日は諦めるか」
私の左右と後ろを三人で取り囲みながら、彼女たちは言う。
「実際のところさぁ~、夏姫ちゃんはどうなの?鈴木君はアリなの?」
「え?」
「向こうがどうこうは分からないけどさ、夏姫ちゃん的には鈴木君と付き合うのはアリ?」
「・・・・・」
そんなもの、勿論ナシに決まっています!!
「えぇ~、そうなの?何で?」
「いや何でって・・・。そもそも鈴木君とは昨日会ったばかりだし・・・」
「ふ~ん?」
「・・・・・」
恋バナなんて、今までしたことない。そもそもこれは恋バナなのか、それすらも分からない・・・。
「そういう田辺さんたちはどうなの?鈴木君のことどう思ってるの?」
自身に向けられる執拗な質問を回避すべく、私は反撃に出る。
「ん、私?私はナシかなぁ~」
いやナシなんかい?!
「え、何で?だって鈴木君、カッコイイんでしょ?」
「見た目はねぇ~。それに、性格も悪くはないんだけどさぁ~」
田辺さんは意味ありげに、その視線を伊東さんへと向ける。
「私は、彩音と将来を誓い合っているから。ね、彩音?」
「え?そうだったっけ?」
困惑する私から視線を外し、ムチュ~っと伊東さんに向けてその唇を尖らせる田辺さん。一方の伊東さんは何とも言えない微妙な表情で田辺さんを眺めており、それが二人の間に横たわる認識の隔たりを感じさせた。
「桜はね、どちらかというとヒョロガリな男子の方が好きなんだよ」
私の後ろから、雪ちゃんが小声でそう伝えてくる。
「だから、細マッチョな鈴木君は恋愛対象外なの」
「ふむふむ、なるほどね?」
私のイメージでは女子たちはどちらかというとムキムキマッチョな男子が好きなイメージがあったんだけれど、意外とそんなでもないのかな?
「いや、恋愛対象外じゃないよ?」
え?
「鈴木君なら全然セーフだよ?」
困惑顔を続ける伊東さんから視線を外し、田辺さんはそう宣う。
「私はスポーツ一択の脳筋バカがダメなのであって、その点鈴木君は知的で優しくて大人な紳士だから」
「「「・・・・・」」」
「だからまあ、ぶっちゃけナシではない」
「「「・・・・・」」」
いや、さっきはナシって言ったやん?!
「とにかく、今日はもう帰ろっか?鈴木君もいないしさ」
「・・・・・。そうだね」
誰もいない図書室に背中を向けて、私たちは歩き出す。そうして校舎を後にした私たちの背後からは、運動部員たちの元気いっぱいな掛け声が響き渡っていた。