第30話:恋バナという名の娯楽
私が大葉中学文芸部員となったその翌日、私はいつもの三人と共に教室で駄弁っていた。
「それでさぁ~、鈴木君がいつも以上に饒舌でさぁ~~」
「「ほぉ~~?」」
「明らかに私たちに向ける顔とは違うんだよねぇ~。何ていうかさ、男の顔っていうの?」
「「ふ~ん?」」
何だろう・・・。この何とも居た堪れない微妙な空気は・・・。
「これはズバリ、恋だよ!!」
「「恋!!」」
「鈴木君は夏ちゃんに、恋しちゃったんだよ!!」
「「おぉ~~!!」」
いや、違うと思うよ?新人部員が来たから、それが嬉しかったとかそんなんじゃない?
そんな私の投げ遣りな反論に耳を貸すこともなく、三人は私を置き去りにしながらより一層盛り上がっていく。
「自分しかいないはずの閑散とした図書室に、突如として現れた美少女転校生。彼女はどこか戸惑いつつも自分の元へと近付いてきて・・・」
芝居がかった大仰な物言いで、田辺さんは続ける。
「自分たち以外には誰もいないその空間で、二人は見つめ合うの。ドクドクと高鳴る心臓に手を添えて、そっと目を閉じて・・・」
ムチュ~っと、田辺さんはその唇を尖らせる。そして、それを真正面から見ていた伊東さんもまたムチュ~っとその唇を尖らせる。
「「ムチュ~~」」
この二人は、一体何をしているのだろう?
「まあ、そこまではしてないんだけどさ」
「え?してないの?」
「うん、だってその場には私もいたし」
「えぇ~、そうなの?つまんないの」
ムチュ~っと尖らせていたその唇を、今度は不満げに尖らせる田辺さんと伊東さん。
「でもさ、脈はあるんでしょ?」
「うん、それはあると思う。鈴木君のあの表情は、たぶんきっとそういうことに違いないはず!!」
「そっか、それは楽しいことになりそうだねぇ~?」
三人の視線が、私へと集中する。
「というわけで夏ちゃん、放課後は図書室に行こう」
「えぇ・・・」
「大丈夫大丈夫!私たちは邪魔しないように離れた所から観察しとくから」
「・・・・・」
彼女たちは、きっと暇なのだろう・・・。何しろ彼女たち三人は実質帰宅部であり、放課後特にすることも無いみたいだしね。
「いやぁ~、いい暇潰しができて良かったねぇ~」
「そうだねぇ~。手持ちのゲームは全部夏休み中にクリアしちゃったし」
「休日ならともかく、放課後は駅前のモールに出掛けるのも微妙だしねぇ~」
こうして、その日の昼休みは過ぎていく。どこまでが本気でどこからが冗談なのか、賑やかな三人娘たちはワイワイと私を揶揄いながらその笑顔を絶やさない。
「おっと、もう授業か・・・」
鳴り始めた始業の鐘の音とともに、彼女たちは散っていく。そんな彼女たちの後姿を目で追いながら、私は小さく溜息を零すのだった。