第3話:一色(ひいろ) 夏樹(なつき)
今更ではあるけれど、僕の名前は一色 夏樹。今年で十四歳になる中学二年生である。
十四歳というそれなりの年齢にも拘わらず身長は未だに150センチに届かず、ひょろひょろで筋肉もなく体重も超軽い。それらに加えてロリな女顔のために同性のクラスメイトたちからは揶揄われ、異性のクラスメイトたちからは愛玩動物の如く扱われている。
そんな感じで非常に不本意な学校生活を送る僕ではあるのだけれど、そんな僕には仲の良い幼馴染が二人いる。一人目は同じサッカー部仲間でもある本田 陽介。そしてもう一人が芦谷 知美。
この二人は住んでいる家も近く、親同士も仲が良いために幼い頃から付き合いがあった。そして何やかんやと気も合ったため、性別の違いだったり思春期特有のあれこれも乗り越え今なお深い付き合いを続けている。
そして今、そんな仲良しな僕たち三人は休日明けの学校へと向かって歩いていた。まだ授業も始まっていない朝方だというのに空に浮かぶ太陽は既にヤル気全開であり、そのせいで僕は既にヤル気ゼロである。
「ねえ、今度の休みの日にさっちゃんたちと服買いに行くんだけど、なっちゃんも行く?」
「え?何で僕が?」
「さっちゃんたちがなっちゃんにメイド服着せたいんだって。駅前のショッピングモールにコスプレ用の服を扱ってる店が新しくできたみたいで、自分たち用の服選びのついでになっちゃんを着飾って遊ぼうって」
「・・・・・」
幼馴染の明け透けな発言によって、僕のヤル気ゲージはゼロを下回って更に下降していく。ともちゃん、偶にこうやって悪乗りして揶揄ってくるんだよなぁ・・・。
「陽介も一緒に行く?」
「い、いやぁ・・・。女子と一緒に買い物は色々とアレだろう?」
「えぇ~、別にいいんじゃない?さっちゃんたちもあまり気にしないと思うよ?寧ろ陽介と一緒にいられてテンション上がるかも」
「・・・・・」
幼馴染の意味深なニヤニヤ顔によって、陽介のテンションは下がっていく。僕の幼馴染はイケメンであるが故に同校の女子たちから非常にモテるらしいのだが、当の本人はその状態を煩わしく感じているらしい。贅沢な奴め!!
「ていうか、その日はどうせ部活があるだろうし」
「えぇ~、サボればいいじゃん」
「いや、ガチで用事があるのなら何も言われないけどさ。あからさまなサボりがバレたら、一部の人間が煩いんだよ」
「えぇ~」
特に、最近は新部長の武井君が荒れているし。夏休みには近くの学校との紅白試合もあるはずだから、池田先生も張り切っているしなぁ・・・。
「そっかぁ~。サッカー部は厳しいんだね」
「お前たちバドミントン部とは違うんだよ。非常に遺憾なことにな」
「ウチの部活はサボり上等で緩いからなぁ~。皆サボり過ぎて、もう解散でいいんじゃねって話も出てるくらいだし」
「「・・・・・」」
できることなら、僕もそれくらいの温度感の部活に入りたかった。運動もそこまで好きじゃないし、こんなことならもっとよく調べてから入部すればよかったなぁ・・・。
「知美、おはよー!!」
「あっ!さっちゃんおはよーーッ!!」
「夏樹君と本田君もおはよー!!」
「うん、おはよう」 「ああ、おはよう」
そうして三人で駄弁りながら歩いているうちに、僕たちは学校へと辿り着いた。狭い校門前は登校中の生徒たちで溢れ返り、そこら中で朝の挨拶が交わされている。
「今日の英語の小テスト、勉強した?」
「いや、全然」
「そっか!!そうだよね?」
「モチのロン!ガハハハハ!!」
仲の良い女子生徒と合流したともちゃんは、豪快な笑い声を上げながら僕たちから離れていく。いくら幼い頃から仲が良いといっても、流石に学校の中では男子である僕たちと絡むことは少ない。
「それじゃあ、俺たちも行くか」
「うん」
「英語の小テストのこと、覚えてた?」
「モチのロン」
ヤル気マックスの夏の日差しから逃げるように、僕たちは校舎の中へと早足で入っていく。そんな僕たちの背後では、熱血教師の池田先生が時間ギリギリまで生徒たちと挨拶を交わしていた。