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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第二章:新しい学校生活
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第29話:出会い

 熱心な女子部員たちの勧誘から逃げ出すべく、私は入部届に文芸部の名前を書いて職員室へと向かった。そうして向かった先の職員室で前原先生へとそれを提出し、私は無事大葉中学の文芸部員となった。


「本当にいいの?私が顧問の文芸部で、本当にいいの?」


 申し訳なさそうな顔の中に若干の期待を含む表情でそう問うてくる前原先生に、私の中に眠っていた僅かばかりの良心が痛む。


「はい、文芸部で大丈夫です。私、本は好きなので」

「一色さん・・・」


 私の後ろにいる雪ちゃんが小声で嘘吐けとか言っているけれど、本が好きなのは本当だ。本を読むことが好きなのではなくて、本自体が好きなのは決して噓ではない、ハズ・・・。


「もしよかったら、具体的な活動のこととか説明するけれど?」

「いえ大丈夫です。その辺は大代さんから聞きますので」

「そう?」

「はい、大丈夫です。ね、大代さん?」


 なおも食い下がってくる前原先生へと頭を下げ、私は雪ちゃんと共に職員室を後にする。


「夏ちゃんは見るからに真面目そうだからなぁ~。先生もちょっとだけ期待しちゃったのかも」

「え?」

「文芸部って、サボり魔が集まった実質帰宅部じゃん?だから、国語の教科担当である前原先生的にはその辺気にしてるらしくてさ」


 そう言って、雪ちゃんはちょっとだけ申し訳なさそうに眉尻を下げる。


「私や桜たちも、たまぁ~に図書室に寄ったり、本借りたりしてるんだけどさ。一月に一回とか、二月に一回とか」

「・・・・・」


 職員室を後にした私たちは、そのまま図書室へと向かう。本当はこのまま帰ってもよかったのだけれど、私たちの心の中に芽生えたほんのちょっとばかりの良心がチクチクと痛んでしまったのだ。


「この前説明したばかりだけど、ここが図書室だよ」


 沢山の蔵書が並んだ図書室の中へと、私たちは足を踏み入れる。


「基本的に、本を借りるのは昼休みにやるの。その時間しか対応してくれる図書委員はいないから」

「ふ~ん?放課後とかは借りられないの?」

「先生に言えば借りられるだろうけど、見ての通りそもそも利用者なんて殆どいないし」

「・・・・・」


 ちなみに、私は転校初日のホームルームで美化委員に任命されている。同じく美化委員に任命された雪ちゃんと共に窓枠に埃が付いていないかチェックしたり、床にゴミが落ちていないかチェックする係である。嘘だけど・・・。


「おっ?あれは、部長?」


 雪ちゃんの説明を適当に聞き流しながら本棚を眺めていると、突然雪ちゃんが素っ頓狂な声を上げる。


「珍しいな・・・。いつもなら、誰よりも早く学校から帰る部長が・・・」


 雪ちゃんの視線の先には、一人の男子生徒がいた。その生徒は図書室に設置された椅子へと腰掛け、一冊の文庫本に目を通していた。


「部長、お久しぶりです!!」

「ん?ああ、大代さんか」

「そうです!隣のクラスの大代です!!」

「珍しいね?大代さんが図書室に来るなんて。それと、隣の子は?」


 真面目そうな相貌の男子生徒が、そう言って私へと視線を向ける。


「この子は一色 夏姫さん!この前こちらに転校してきたばかりの私の従姉で、新しい文芸部員だよ!!」


 雪ちゃんにそう紹介されて、私は軽く頭を下げる。


「一色 夏姫です。よろしくお願いします」

「うん、よろしく。僕は文芸部部長の鈴木すずき 颯太そうた。大代さんと同じく二年で、夏休み前に文芸部の部長を引き継いだんだ」


 私よりも頭一つ分くらい背が高く、意外にもがっしりとした体躯の鈴木部長。


「鈴木君、文芸部部長のくせにスポーツも得意なんだよ」

「へぇ~、そうなんですね?」

「元々習い事として柔道をやらされていたから、その影響かもね?」


 私たち以外誰一人としていない図書室で、私たちは軽い雑談を続ける。


「見ての通り、ウチの部は皆実質帰宅部だからさ。気が向いた時でいいから、偶に図書室に来てくれると嬉しいかな」

「はい、分かりました」

「それと、同じ学年だからタメでいいよ。僕もそうするし」

「え、えぇと・・・。うん、分かった」


 そうして話しているうちに時間は過ぎ、今はもう十七時前。私たちは鈴木部長へと帰る旨を伝え、そのまま学校を後にする。


「鈴木君、女子たちから結構人気があってさ」

「ふ~ん、そうなの?」

「他のガキっぽい男子たちと比べたら大人だし、それに、シンプルに見た目が良いしね」


 そう言って、雪ちゃんは私に意味深な視線を飛ばしてくる。


「いやぁ~、これは面白くなってきましたなぁ~~、にししし・・・」

「???」


 まだ残暑の厳しい帰り道を、私たちは早足で進んでいく。そんな帰り道で一人気味の悪い笑い声を上げる従妹に、私はただただ困惑するのだった。

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