第27話:荒れるともちゃん
その日の授業が全て終わり、特にやることもない私は、雪ちゃんと共に家を目指していた。
「いやぁ~、今日も疲れたねぇ~」
「そうだねぇ・・・」
夏休みが明けてまだ一日目だというのに、何だか異様に疲れた気がする。
「今はまだ体育祭まで時間があるからいいけどさ、去年は二週間くらい前から全学年合同のダンス練習とかあってさ」
「へぇ~」
「今の時期ってまだ暑いじゃん?それなのに昼休みとか放課後まで使ってさ。先輩たちのヤル気次第では今年も地獄を見そう・・・」
私と同様、雪ちゃんは運動が苦手だ。非常に活動的な言動とは打って変わり、意外にも彼女はスポーツ全般が苦手なのである。
そんなわけで、体育祭に対する雪ちゃんのモチベーションはかなり低い。具体的に言うと、当日ガチでサボりを考えるくらいには超低い。
「はぁ~、雨とか降らないかなぁ~」
「・・・・・」
「何なら台風とか来ないかなぁ~」
「雪ちゃん・・・」
非情にローテンションな雪ちゃんと共に、私は家の扉を潜る。私たちは部活もせずに家へと直行だったため、伯母さんもまだ仕事から帰ってきてはいなかった。
「とりあえずシャワーだぁ~~!!」
鞄を投げ捨て、ついでに着ていた制服すらも脱ぎ捨てて、雪ちゃんは浴室へと突撃していく。
「もう、雪ちゃんったら・・・」
そして、そんな彼女が投げ捨てた荷物を無言のまま回収していく私。
「・・・・・」
脱ぎ捨てられた衣類を脱衣所へと投げ入れ、打ち捨てられた鞄を雪ちゃんの部屋へと放り込み、私は自室へと向かう。
「あ、陽介から連絡来てる・・・」
そうして部屋へと戻った私の目に映ったのは、陽介からのメッセージ通知を知らせるスマホの点滅。
「・・・・・」
先日の陽介との遣り取りを思い返し、私は顔を曇らせる。ヤバい、滅茶苦茶気マズい・・・。
「あの、もしもし?」
早鐘を打つ心臓を必死に抑えながら、私は努めて平静を装う。
「夏樹、久しぶり」
「・・・・・。うん、久しぶり」
「こんな時間にゴメンな?ちょっと、知美のことで話があってさ」
「・・・・・」
ともちゃんのことかぁ・・・、そっかぁ・・・。
「夏樹ってさ、今、知美とケンカ中?」
「いや、ケンカっていうか何ていうか・・・」
「今ちょっと、知美がご乱心中でさ・・・。まあ、何となく状況は察してるんだけどさ」
「・・・・・」
そっか、ともちゃん、荒れてるのか・・・。
「夏樹、あのさ・・・」
「うん?」
「実は、親父たちから夏樹のこと聞いてさ」
「・・・・・」
早鐘を打っていた私の心臓が、その動きを止める。
「先日ああ言った手前申し訳ないとは思ったんだけど、ちょっと今緊急事態でさ」
「・・・・・」
「今度の休みの日に、一回会えないか?それで、少しだけ話したいっていうか」
「・・・・・」
勝手に終わらせたつもりになっていた夏休みの宿題が、私の心を責め立てる。陽介の必死な懇願が、私の頭の中をグチャグチャにさせる。
「夏樹?おい、夏樹?」
「・・・・・」
陽介・・・。
「うん、分かったよ。今度の日曜日、そっちに行くよ」
「ああ、ありがとう」
陽介との通話を終わらせ、私はスマホを手に持ったままベッドの上へとその体を投げ出す。
「あぁ・・・」
役目を終えて真っ暗な待機状態へと戻ったスマホの画面には、死んだ魚のような目をした私の顔が映っていたのだった。