第26話:気マズい空間
暑苦しい秋空の下でのダンス練習を終えて、私たちは更衣室へと戻ってきた。当然ながらそこでは皆下着姿となり、次の授業に備えるべく着替えを行っているのだけれど・・・。
「夏ちゃん、何赤くなってんの?」
「いや、別に・・・」
「女子の裸なんて、自分のと私ので見慣れてるじゃん」
「・・・・・」
更衣室の隅っこへと集まり、私と雪ちゃんはひそひそ声で言葉を交わす。
「今すぐとは言わないけどさ、なる早で慣れないと」
「そんなこと言われても・・・」
「来年になったら、修学旅行だってあるしさ。そしたら、女子の皆と一緒に素っ裸になって大浴場だよ?」
「ぶほっ?!」
ヤメて?!今の私に、そんな先の話をしないで?!
「二人共、どうしたの?」
雪ちゃんが変な話をしたせいで、私は盛大にむせてしまった。そして、そんな私たちの様子に気付いた田辺さんと伊東さんが、下着姿のまま近寄ってきた。
「うん?いや、夏ちゃんのお胸、中々大きくならないなぁ~って」
「ふ~ん?」
三人の視線が、私の真っ平な胸部へと集中する。いやちょっと、そんなに見つめられると・・・。
「夏姫ちゃんて、背も小さいもんね?」
「う、うん・・・」
「だからかなぁ~?」
「いや、どうだろ・・・」
今の私の身長は、百五十センチ足らず。それに比べて眼前の女子たち三人の身長は、おおよそ百五十センチ後半といったところだろうか?
「夏姫ちゃんて、ブラしてるの?」
「一応、ブラトップのキャミ着てる・・・」
「ほ~ん、なるほどね?」
「・・・・・」
今私が着ているのは、キャミソール型の下着。一応ブラトップ機能もあるヤツであり、それが私の真っ平な胸部を隠し支えてくれている。
一方で、眼前の三人娘たちは清楚で可愛らしいブラジャーを身に着けており、当然ながら胸部も相応に膨らんでいる。そして、ブラに覆われたその豊かな胸部を、惜しげもなく私に晒している。
「・・・・・」
今の私が女であるためなのか、あまりにも堂々とその下着姿を晒す彼女たち。そしてそんな彼女たちの立ち姿に、私は若干の気マズさを感じて顔を逸らす。
「「「・・・・・」」」
私は、元男だ。いや、元々女ではあったのか・・・。いずれにしても、今の私の心境は何とも複雑な状態である。男として過ごしてきた十四年分のその記憶が、私の心の中を大きく搔き乱している。
「夏姫ちゃん、顔が赤くなってる」
「そっか、そうだよね・・・。何か、ごめんね?」
意図せず火照ってしまった私の顔を見て、田辺さんと伊東さんは訳知り顔で頷く。てか、何を謝ってるの?
「大丈夫だよ夏姫ちゃん!夏姫ちゃんだって、もう少しすれば胸も大きくなるって!!」
そう言って、田辺さんは私の頭を優しく撫でてくる。
「それに、仮に大きくならなくても、それはそれで需要があるって!!」
そう言って、伊東さんも私の頭を撫でてくる。
「「よしよしよし」」
「・・・・・」
半裸のクラスメイトたちに小さな胸のことを励まされながら、何故か頭を撫でられる私。
「にしししし」
「・・・・・」
眼前で揺れる二人の胸部を見て更に顔を赤くする私を、私の従妹は実に楽し気な表情で眺めていた。