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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
終章:過去との決別と未来の私
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最終話:今からちょっとだけ先の未来の話

 その後の顛末について、少しだけ語ろうと思う。端的に言うと武井君は無期限の停学処分となり、その後自主退学扱いとなったらしい。

 彼は私以外の複数の生徒にも似たような事をしでかしていたようで、その中には内田君や深山君なんかもいたらしくて・・・。そんなわけなので先生方も彼のご両親も彼を擁護なんてできるはずもなく、その点については妥当な判断がなされたのだと思う。


 あと、これは後日武井先輩からの謝罪の際に聞いた話や学校に出回った噂話からの推察になるのだけれど、武井君とそのお姉さんはあまり上手く関係を築けていなかったらしい。特に弟である武井君はお姉さんのことを相当嫌っていたようで、それが今回の件に大きく影響したようなのだ。

 武井先輩は弟のことを可愛がっていたようなのだけれど、でもそれがちょっと行き過ぎた可愛がり方だったようで・・・。思春期である弟の部屋に無断で入ったりスマホの中身を勝手に見たり、他にもドン引きするような話まで聞こえてきて・・・。


 でもまあ、その大半は所詮噂話なので、あまり無責任なことは言えないのだけれど。でも、武井先輩と付き合っていたらしいサッカー部の先輩は弟の情報集めのために利用されたとか何とか言って号泣してたって陽介も言ってたし・・・。


 だからまあ、その辺の家族の事情が武井君が荒れる一因になったんじゃないかって、私の周りの人たちは結論付けている。そして私自身も、そういうことだったんだと一先ずは納得するようにしている。

 実際のところはどうなのかということは武井君本人でないと分からないのだけれど、この件はそういうことだったのだと、もう終わったことなのだと、そうやって区切りをつけて私たちは前に進む必要があったのだ。


 あの事件のせいで武井君に恫喝された面々は周りから色眼鏡で見られるようになり、当然ながら私も色々と噂され勘繰られて・・・。その中には私の正体について言及するものもあって、だからこそそんな噂話を終わらせるためにも私たちは前を向く必要があって・・・。


「あの、一色さん?」

「何かな、深山君」

「一色さんて、女の子だよね?」

「当たり前でしょ?どうしてそんなこと訊くのかな?」


 そんなこともあったりなかったりして・・・。やがて私は、高校二年生になった。


「おはよう。陽介」

「おう、おはよう」

「ともちゃんも、おはよう」

「うん、おはよう」


 あれから数カ月経って、変な噂話もすっかり落ち着いた。そんな今、私たちは幼馴染三人揃って駅へと向かう。


「あぁ~、今日も暑いなぁ~」

「まあ、夏だからな・・・」

「あ゛づい゛ぃ゛~~~~」

「こらっ!!スカートをパタパタさせんな?!」


 武井君がいなくなって、内田君は私の正体をほぼほぼ確信していて、深山君はまぁ~、どうでもいっか・・・。

 峰島中学時代のクラスメイトだった女子たちには既に私の秘密を共有済みだし、だからもう、陽介が私のことでどうこうする必要もなくなったっていうか・・・。


「知美、おまえはもうちょっとお淑やかにだな?」

「えぇ~?そんなこと言われたって、暑いんだもん」

「いや、だからって・・・」

「あ゛ぢぃ゛~~~~」


 私が女子になって、女子の友達が増えて、そうやって生活しているうちに陽介との関係性についても色々と思うところがあって・・・。だから一時期は意識して距離を取っていたのだけれど、いつの間にかそれも元に戻ってしまっていた。


「どうしたのなっちゃん?ニヤニヤして」

「え?」

「何か、気持ち悪いんだけど・・・」

「・・・・・」


 結局、三人でいることへの誘惑には抗えなくて・・・。幼い時から一緒に過ごしてきたこの二人とは、離れ難くて・・・。


「べ、別に、ニヤニヤしてないけど・・・」

「ふ~ん?」

「な、何よ?」

「いや、別に?」


 そうやってまた三人で過ごして、その時間はとても輝いていて・・・。だけれどそんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気が付いた時には、私はもう大人になっていた。



 *****



「ちーーっす!先生、お邪魔しまーーす!!」


 医薬品のにおいが漂う真っ白な室内に、無駄に元気な声が響き渡る。


はやしさん、また来たの?」

「そう、また来たのです!!いひひひ」


 あれから、もう十年もの月日が流れていた。目の前で不気味に笑う女の子と同年代だったはずの私は、もうここにはいない。


「お腹が痛いとか、そういうのじゃないのね?」

「うん、今日は大丈夫」

「それならいいんだけど」

「いひひひひ」


 高校を卒業して大学へと進み、大学在学中も迷いに迷いながら今の進路へと進み、そして今、私はとある小学校で養護教諭を務めている。


「棚の中の薬品は触っちゃダメよ?」

「えぇ~~?」

「えぇ~~?じゃない」

「はぁ~~い」


 授業をするわけでもなく、担任としてクラス運営をするわけでもない。だから、私の両親みたいな教科担当の先生たちに比べれば全然楽なはずなんだけれど・・・。


「そろそろ、次の授業が始まるんじゃない?」

「・・・・・」

「教室、戻らないの?」

「・・・・・」


 養護教諭は養護教諭で、中々に難しくて・・・。


「授業、つまんない?」

「うん、つまんない。特に算数とか意味分かんないし・・・。だから当てられても何も答えられないし・・・」


 う、う~ん・・・。


「でも、学校は楽しいよ。友達もいるし、それに先生もいるから。先生は他の先生と違ってちっちゃくて優しいから、話しやすいんだよね!!」


 私のコンプレックスだった低身長と童顔は、ここでは一応プラスに働いているようで、それはまあ良かったのだけれど・・・。


「・・・・・、そっか。なら、その友達が心配してるかもだから、一旦戻った方がいいかもね?」

「・・・・・」

「また、いつでも来ていいから。ね?」

「・・・・・。うん、分かった」


 母さんや父さん、その他先生たちは、このような子供たちとずっと向き合ってきたのだろうか?私は今後、上手くやっていけるのだろうか?


「じゃあ、またね?」

「うん、いつでもいらっしゃい」

「うん、ありがと。じゃあね、本田先生!!」


 元気よく椅子から立ち上がり、廊下へと飛び出していく女の子を見送りながら、私は呼ばれた名前を反芻する。


「本田先生、か・・・」


 今から一年前に、変わってしまった苗字。旧友や幼馴染の親たちによって気が付かぬ間に外堀を埋められ、そのまま流されるままに私は陽介と結婚してしまっていた。


「・・・・・」


 結局、あれからも陽介との腐れ縁は続き、確かに仲は良かったし一緒にいて居心地は良かったのだけれど・・・。


「まあ、いっか・・・」


 陽介は陽介で特に嫌がってる感じでもなかったし、私もまあ、別に嫌なわけではないし・・・。


「ふぅ~~」


 だから、深く考えるのはもう終わりにしよう。昔の私である一色 夏樹はもうこの世界のどこにも存在せず、今ここにいるのは新しい私、本田 夏姫なのだから。

 長い間お付き合い頂き、誠にありがとうございました。皆さんに少しでも楽しんで頂き、余暇時間のお供になれたのであれば幸いです。 

 素人作品であるが故に、設定や物語の進行などなど詰めの甘いところも多かったと思います。でも、だからこそ、そういった点にも目を瞑り最後まで読んでくださった皆様には感謝しかありません。

 最後になりますが改めまして、長い間お付き合いくださり本当にありがとうございました。今後も機会があればまた別の作品を皆様の元へお届けしたいと考えていますので、その際はまた応援頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
緩い雰囲気で気負いなく読めて良かった 陽介との関係が進む所も読みたかったけど9年かかってるから大きなイベントは無かったのかな〜 確かに物語的なメリハリは少し乏しく感じたけど、それが逆に性別が変わって…
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