第239話:歩き慣れた帰り道
日が傾き赤みが増してきた空の下を、私たちは歩いていた。その道は私たちがよく利用する電車の駅から自宅へと続く道であり、そんな道を幼馴染の男の子と一緒に私はのんびりと進んでいた。
「武井先輩、サッカー部の先輩の一人と付き合ってるらしいんだよ。だから、今日みたいに休日の部活動を見にくることもちょくちょくあってさ」
「へぇ~、そうなんだ?それは初耳かも・・・」
「で、夏姫から例の件については聞いてたから、一応警戒はしてたんだけど・・・。でも、帰り際に声かけられて、話したいことがあるから一緒に帰ろうって・・・」
そ、それは・・・。
「部活動中の休憩時間とか、武井先輩が他の男子に声をかけることは結構あったんだけどさ。でも、な?」
「・・・・・」
「内田や深山も後ろの方でゴチャゴチャ言ってたし、相手の男子からは凄い形相で睨まれるしでもう散々で・・・。だからもう、武井のこと話す前から疲れちゃってさ・・・」
ゲッソリとした表情のまま、陽介は言葉を続ける。いつもは飄々としていて何事にも余裕ぶった態度で挑む彼にしては珍しく、心の底から嫌だったんだろうなと私は憐みの視線を向けながらその背中を優しく撫でてあげる。
「で?結局、お姉さんとは何話したの?聞いていた限り、あんまり中身のある話はできなかったみたいだけど」
「・・・・・」
私の言葉に、陽介は重い溜息を零す。そのまま彼は遠い目をし、表情を引き攣らせながらその口からゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「小学生の頃のことについてはガチで何も覚えてなかったからさ、だから、中学生の頃のことについてちょっと。一方的に色々と言われたり、睨まれたり、だから面倒臭くなってなるべく避けるようにしてたって」
「・・・・・」
それはまあ、そうだよね。私も基本的には陽介の側にいたから、それはまんま私も見聞きしていたわけで・・・。
「だからまあ、武井とはそんな感じだったんで、何も知りませんって」
「・・・・・」
「他に、話せることもないしな」
「・・・・・」
武井君の現状を憂い、行動していたらしい武井君のお姉さん。だけれど、ようやく辿り着いた陽介という情報源は彼女の求める答えなんて持ってはいなかった。
「武井先輩、これからどうするんだろ・・・」
「さあな」
「陽介以外の人にも、話聞いたりするのかな?」
「・・・・・」
できることならば私の身バレ防止のためにも、これ以上はあまり関わり合いたくないのだけれど・・・。
「俺も夏姫も、先輩が求める情報を持ってなかったんだ。だから、先輩が俺たちに積極的に絡んでくることはもうないと思うぞ?」
「・・・・・、本当?」
「本当もなにも、実際に俺たちは何も知らないし・・・。だからまあ、大丈夫だろ。たぶんきっとメイビー」
・・・・・。
「それとだな・・・。俺と武井って、同じクラスじゃん?だから、一応朝の挨拶くらいはするんだよ。内田や深山共々毎回無視されるけどな・・・」
「・・・・・」
「だからまあ、もう本当にどうしようもないっていうか・・・」
そう言うと、陽介は再び重い溜息を零す。
「とりあえず、武井先輩との話はそんな感じだ」
「・・・・・、そっか・・・」
「さっきも言ったけど、先輩が今後俺たちに絡んでくることはないと思う。だけど・・・」
そこで言葉を区切り、陽介は私の方へと向き直る。
「何かあったら、すぐに言えよ?な?」
ゲッソリとしていて、疲れ切った様子で・・・。だけれども、その顔は昔からそうであったように誰よりも頼りになるいつも通りの幼馴染の顔で・・・。
「あ、えぇと、うん」
何故かその表情にドギマギしてしまった私は、そう短く返すことしかできなかった。