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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
終章:過去との決別と未来の私
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第238話:夕暮れの公園

 二月も終わり、春がもう間近へと迫った三月上旬のとある土曜日、私は新島さんと出掛けていた。彼女とは「もう一人の本田ほんだ事件」が切っ掛けで知り合ったのだけれど、何やかんやと付き合いが続いていたのだ。


 私やともちゃん以外のイツメンたちは休日にも部活動があるし、ともちゃんは最近妖しげな眼差しで私のことを見てくるので二人っきりだと身の危険が・・・。新島さんは新島さんで未だに教室内で浮いてしまっており、気軽に誘える友達が私くらいしかいないらしくて・・・。

 そういった理由もあって私たちは時折二人っきりで遊ぶのだけれど、そろそろ他のメンツを混ぜてもいいかもしれない。新島さんは人当たりもいいからともちゃんたちともぶつからないだろうし、それにもう少しすれば二年生になってクラス替えもあるだろうから、今のうちに交友関係を広げておけばそれは彼女にとってもプラスに働くだろう。


 とはいえ、それは次回以降の話だ。目的の映画も見終えたし、散々遊び倒しているうちに日も傾いてきたからそろそろ帰る時間なのだ。


「それじゃあ、またね?」

「うん、バイバイ!!」


 駅前で別れ電車に乗り、私は自宅のある駅へと向かう。


「ついでに、買い物もしてこっかな・・・」


 スマホを手早く操作し、私は出掛ける前に作っておいた冷蔵庫の中身リストを確認する。しかしながら、珍しいことにそれは両親によって既に更新されていた。


「おぉ~?母さんたち、もう帰ってきてるんだ。珍し・・・」


 部活動対応の他にも、この時期は入試に関する対応とかで色々と忙しいらしく、平日休日問わず帰りが遅いのに・・・。


「まあ、早く帰れることはいいことだ。てか、そもそも今日は休みのはずなんだけどね・・・」


 車窓の外を猛スピードで流れていく街の景色を眺めながら、誰にともなく私は呟く。


「それなら、真っすぐ帰ろっかなぁ~」


 目的の駅へと着いてそのまま駅前広場へと進み・・・。


「ん?あれは陽介と、誰?」


 私の視線の先には、最近ちょっとだけ距離を取っている幼馴染と、その隣を歩く女性。二人はたくさんの人たちで賑わう駅前広場から人けの少ない公園の方へと向かい、そのまま私の視界から消えていった。



 *****



 人の姿が殆ど見られないうら寂れた公園で、隣り合ったままベンチに腰掛ける若い男女。彼等のことを知らない第三者がその様子を見れば、所謂デートの一幕に見えたかもしれない。

 だがしかし、私は知っている。陽介の隣に座っている女性の素性を、私は知っているのだ。彼女の名前は、武井 瑞希みずき。彼女はあの武井君のお姉さんその人であり、つまり、彼女はついに陽介との接触を決断したようなのである。


「さっきも話した通り、元々ボクたちはそんなに親しくなかったので、これ以上話せることもないっていうか・・・。武井君もボクのこと、よく知らないでしょうし・・・」

「・・・・・」

「ですので、これ以上は・・・」

「うん、うん、解ってる・・・。私の方こそ、変な話してごめんなさいね?」


 二人の視線から隠れるように、私は近くの植栽へと身を隠す。幸か不幸か私は超小柄だから、こういった時に身を隠すのは得意なのである!!グスン・・・。


「今日は、ありがとね?」

「いえ、別に・・・」

「お陰で、少しだけスッキリできたっていうか・・・」


 私がこの場所に辿り着いた時には、一番大事な部分についての話は終わってしまっていた。だからもう、二人がどのような話をしていたのかは私には分からない。

 陽介が武井君について何を語ったのか、また、武井君のお姉さんはそれを聞いて納得できたのか・・・。私には、それが分からない。


「それじゃあ、ここで・・・」

「・・・・・、はい」


 ベンチから立ち上がり、二人は軽く頭を下げ合う。そしてそのまま、武井君のお姉さんは公園から足早に立ち去ってしまった。


「はぁ~~」


 公園に響き渡る、重くて苦し気な陽介の溜息。彼は根が真面目で優しいから、胃が痛かっただろうなぁ・・・。


「夏姫?」

「・・・・・」

「いるんだろ?」

「・・・・・」


 いえ、いませんよ?


「そこに隠れてるの、バレてるからな?」

「・・・・・」

「おい」

「ちょ?!ヤメて?!痛いってば?!」


 隠れていた植栽を覗き込まれ、呆気なくバレ、そのまま頭を鷲掴みにされる私。


「久しぶりに見かけたと思ったら、何やってんだよ?」

「いや、ちょっと気になっちゃって・・・」


 だって、陽介が見知らぬ女性と歩いてたから・・・。いやまあ、実際は見知らぬ女性なんかじゃなかったわけなんだけどさ・・・。


「はぁ~~」

「・・・・・」

「とりあえず、歩きながら話すか」

「・・・・・、うん」


 そうして私たちは、二人並んで公園を後にしたのだった。

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