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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
終章:過去との決別と未来の私
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第237話:男と女の狭間で

 中学二年の夏休みの早朝、突然私の体を襲った異変。それは本来私には訪れるはずのないもので、それは所謂初経というやつだった。

 気が付けば、あれからもう二年と半年も経っている。長いようで短かったその間には本当に色々とあったのだけれど、今では夏姫としての生活にもすっかり慣れてしまった。


 初めの頃こそ躊躇していたクラスメイトの女子たちとの同室での着替えにも、慣れた。彼女たちと連れ立って一緒のトイレに行くことにも、慣れてしまった。

 今でも内心気マズさとか申し訳なさとかあるにはあるのだけれど、そんなこと気にしていたらもう生活できないし・・・。そもそも一緒にお風呂に入った子すらいるし、だからまあ、今更だよね。


 一番懸念していた昔の私を知る人物たちとの関わり方や身バレについても、今のところはなんとかなっている。その辺りは幼馴染であるともちゃんやその親友であるさっちゃんが色々と動いてくれたから、夏姫イコール夏樹という事実を知ってもなお私を普通の同性として扱ってくれる女子が増えたのだ。

 元々私は小柄で童顔の女顔だったから、彼女たち曰く割とすんなり受け入れられたとのこと。私自身がコンプレックスとしているそれらの特徴が結果的に私を助けることになっているというその事実は何とも複雑な思いを抱かせるのだけれど、プラスに働いているのであればまあ良しとすべきなのかもしれない。


 今考えれば、この顔のお陰で転校直後の大葉中学でも普通に女子として何の疑問もなく受け入れられたのだろう。あの当時の私はまだ髪の毛も短かったのだけれど、特に違和感を持たれた感じもなかったし・・・。

 それは勿論従妹である雪ちゃんのサポートも大きかったのだろうけれど、いずれにしてもこの見た目によって助けられたことは事実なのである。私としては身長だけでも欲しいところなのだけれど、うぅ~ん・・・。


 あの日から二年と半年経った今でも、身長は殆ど変わらない。ついでに胸も、あんまり変わらない。それなのに、お尻だけは謎に成長してしまったんですけど?

 病院で先生から色々な可能性について説明を受けたあの時、胸が成長するとか体が丸みを帯びるとか、そういった話を聞いた時は頭が真っ白になったのだけれど・・・。先生、私の胸、ちっとも成長してくれないんですけど?


 体は小さいままに髪の毛は伸び、胸はまな板のままお尻は丸みを帯び、そんな今の私。でも、そんな見た目の私ではあっても、外野からはしっかりと女子に見えているらしい。


 母さんは貴重な休日に可愛らしい女の子用の服を買ってきては私を着せ替え人形にして大はしゃぎし、可愛いを連呼している。そしてそんな私の黒歴史をスマホ経由で共有された陽介のお母さんやともちゃんのお母さんからも、可愛いを連呼される始末。

 最近はちょっと距離を置くようになった幼馴染の陽介からもスカートの乱れとか注意されるし、ブラやパンツが見えようものならガチで怒られるし・・・。それに、同じ学年の深山君から告白なんかもされたしね・・・。


「はぁ~」


 駅の改札を出たその場所で、私は溜息を零す。待ち人を待つその場所で、一人陰鬱な表情を浮かべる。


「・・・・・」


 目の前を通り過ぎていく同年代の女子たちを見ては、ついつい自分の体格と比べてしまう。目の前を駆けていく同年代の男子たちを見ては、消えてしまった自身の可能性について思いを巡らせてしまう。


(私は、頑張った。頑張ったんだけど・・・)


 あの日あの時、昔の私は男らしく成長した自分を夢想していた。幼馴染である陽介のように高身長でほどよく筋肉もあって、そんな自分を夢見ていた。

 だけど女になってからは、考え方を変えた。バレないように違和感を抱かれないようにと、周りに言われるままに女の子らしく振舞った。


 だってそうしないと、バレちゃうから・・・。だから、私に選択肢なんてなかったんだ。


 本当は嫌だったけど、スカートを穿いた。凄く抵抗があったけど、ブラだってした。

 内心ビクビクしながら、女子のクラスメイトたちとお喋りした。一緒の部屋で着替えたりトイレに行く時は、内心頭を抱えながら大絶叫していた。


 つい先日まで男子として過ごしてきたのに、いきなり実は女だったとか言われても・・・。そんなの、気持ちが付いていくわけがない。すぐに切り替えられるわけがない。

 だけどそうしないといけなくて、周りにバレないように、自分自身を守るためには仕方なくて・・・。そうやって頑張って色々と我慢して、そのうちそんな生活にも慣れてそれが当たり前になって・・・。


「おまたせぇ~~!!」


 目の前を通り過ぎていく人々を眺めながら、ぼんやりと考え事をしていた私。そんな私の元へやって来たのは、新島さん。


「それじゃ、行こっか?」

「うん」


 新島さんとはこうしてたまぁ~に二人きりで遊びに行くくらいには仲が良くて、当然彼女は私のことを普通の女子だと認識しているはずで・・・。


「今日の映画、楽しみだね?」


 私は、ちゃんとした女の子になれたのだろうか?誰からも疑問を抱かれることのない、ちゃんとした女の子に・・・。

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