第235話:解、決?
深山君の私への思いを打ち砕くため、実行に移された「がっかりだよなっちゃん?!大作戦!!」。だがしかし、それは初手から躓いてしまった。作戦の第一段階であるBLコーナーでのアプローチを私が始める前に、深山君と内田君がケンカを始めてしまったからだ。
店員さんたちからの無言の圧を受けた私たちは、会長の先導に従いカラオケ店へと移動した。そこで私たちはそれぞれが頼んだソフトドリンクをチビチビと飲みつつ、熱くなってしまった男子二人の頭が冷えるのを待つことにしたのだけれど・・・。
「俺はさ、ただ、おまえのことが心配なんだよ」
「・・・・・」
「だってさ、部活の時、マジで上の空じゃん・・・。いつも一色さんの教室の方見てさ、センチな溜息なんて吐きやがって・・・」
私がレモネードをストロー越しにチビチビと飲みながら視線を向けるその先で、静かに語る内田君。どうやら、彼の頭は少しだけ冷静さを取り戻したみたいだ。
「教室でもさ、そんな感じだって・・・。陽介も心配してたぞ?」
「・・・・・」
「別にさ、恋愛が悪いとか、一色さんのこと諦めろとか、そこまではもう言わないからさ」
「・・・・・」
内田君の表情は、親友のことを心から心配するそれで・・・。だけど、その口から語られるのは私のことでもあり・・・。
「諦めきれないんなら、せめて前向きに動けよ・・・。男を磨いて今よりもカッコよくなって、それでもう一度告白しろよ・・・」
いや、そんなことされても困るんですけど・・・。
「それができないんなら、次に進もうぜ?一色さんの背中を目で追って、いるのかどうかも分からない教室の方ばっか見て、それって、ぶっちゃけ気色悪いぜ?」
「くっ・・・」
一瞬、本当に一瞬だけ、深山君はその視線を私の方へと向ける。
「「・・・・・」」
ゴメン・・・。何か、反射的に目を逸らしちゃった・・・。
「俺はさ、てっきり、胸とか尻の大きい年上のねーちゃんが好きだって思ってたんだ。だっておまえ、そういうのばっかり・・・」
「・・・・・」
「でも、実際に告白したのは一色さんで・・・。ロリで、ペタンコで・・・。お尻はまあ、大きいけどさ・・・」
手に持っていたプラスチック製の容器が、潰れる・・・。咥えていたストローが、私の前歯によって噛み潰される・・・。
「まあまあ、夏姫ちゃん。今は抑えて、ね?」
「・・・・・」
ロリじゃ、ねーし・・・。胸はともかくとして、身長はほんのちょっとだけ伸びたし・・・。
「俺だって、カッコ悪いって思うよ。いつまでもウジウジして、引き摺ってさ・・・」
「徹・・・」
「でも、仕方ないじゃねーか。一色さんのこと、好きになっちゃったんだから・・・」
泣きそうな顔でそう言葉を零し、深山君は再度私の方に視線を向けて・・・。
「ぐぎぎぎぎぎ・・・」
「・・・・・」
憤怒の形相を浮かべる私の顔を見た彼は、その視線を秒で内田君の方へと戻した。
「でも、そうだよな・・・。やっぱ、いつまでも引き摺るわけにはいかないよな・・・。こんな俺に付き纏われたら、一色さんも迷惑だろうし・・・」
「徹・・・」
「俺、諦めるよ。それで、デッカイおっぱいと尻を持ったねーちゃんにモテるように、男を磨くよ!!」
「徹!!」
男子二人はそれぞれの手を固く握り、頷き合う。
「そうだよそうだよ、やっぱおまえはそういうヤツだよ!女はやっぱり、胸と尻がデカいに限るって!!」
女子三人がいる部屋で内田君はそう叫び、そしてハッとしたように取り繕った表情を浮かべて・・・。
「いやぁ~、そのぉ~、えぇと・・・」
「「「・・・・・」」」
「とりあえず、誰か歌う?」
「「「・・・・・」」」
その日のBL普及委員会の活動が、終了となった瞬間であった。