第230話:我に、秘策アリ
内田君に呼び出されたあの日から、数日が経った。あの日あの時、昼休み時間いっぱい使って色々と考えた結果、特にいいアイデアも浮かばなかったのでなし崩し的にあのまま解散となって今に至るのだけれど・・・。
「話は全て聞かせてもらったわ。深山のやつ、未だに過去の恋愛をウジウジと引き摺ってるんですって?」
「あの、えぇ~っと、はい・・・」
あの日あの時、私と内田君が密談のために使ったその教室で、内田君は私と仲の良いイツメンたちに取り囲まれ怯えていた。
「私、思うのよ。恋とは、とても素晴らしいものだって・・・。でもね?同時にこうも思うのよ。恋って、とても酸っぱくてほろ苦いものだって・・・」
二度の失恋を経験し、再び部活動の鬼となったさっちゃんが熱く語っている。他のイツメンたちは、そんな彼女を何とも言えない表情で見守っている。
「別にね、フラれたからって、その恋を引き摺っちゃいけないってこともないと思うの。だってそれは、そうしてしまうくらいに素敵な恋だったってことじゃない?」
自分は速攻で他の男に乗り換えたくせに、と、美月ちゃんが小声で呟いている。そしてそんな美月ちゃんの呟きを、華麗にスルーするさっちゃん。
「だけどね?少なくともその相手であるなっちゃんがこうしてドン引きするくらいには拒絶し、その恋の成就が絶望的であるこの状況下においては、深山君を今のままの状態にしておくのもまた良くないことだと思うの。内田君だってそう感じたから、あんな話をしてきたんでしょ?」
「はい、その通りでございます・・・」
あの日あの時、一先ずの話し合いが終わり、私は教室へと戻った。そして当然の成り行きではあったのだけれど、その日の放課後私はイツメンたちに全てをゲロるまで取り囲まれ拘束され、そうして本日に至るわけなのだ。
だから内田君、私は悪くないんだ・・・。そんな恨めし気な視線を私に向けないでほしい・・・。私だって必要以上に深山君の尊厳を傷付けたかったわけじゃなくて、彼女たちが繰り出すくすぐり攻撃に耐えられなかっただけなんだから・・・。
「でも、じゃあどうしたらいいんだよ?!俺だって、散々言ってきたんだよ?!もう無理だって、諦めろってさ!!」
内田君の悲痛な声が、教室内に木霊する。
「おまえも、一色さんみたいなロリじゃなくて、もっとボインなねーちゃんに目を向けろって!!」
「「「「「・・・・・」」」」」
「例えばそう、同じクラスにいる新島さんとかさ!!」
「「「「「・・・・・」」」」」
ろ、ロリ・・・。
「内田君に一つ訊いておきたいんだけど、いい?」
「な、何だよ・・・」
「深山君て、ロリ好きなの?」
「いや、どうだろ・・・。俺はてっきり、巨乳でデカ尻のねーちゃんがタイプだとばかり・・・」
皆の視線が、私へと向かう。より厳密に言うならば、私のお尻へと・・・。
「デカ尻、か・・・」
「でも、胸は・・・」
いや、人の胸見て溜息とか零さないでもらえます?!
「私思うんだけど、シンプルになっちゃんよりも魅力的な人っていうか、より好みに合致した人が見つかれば自然とそっちにいくんじゃない?」
「いや、それはそうなんだろうけどさ。でも、現状はずっとあんな感じだし・・・」
「ふ~ん?なるほどねぇ~~」
さっちゃんの舐めるような視線が、私の体を這い回る。私はその何とも言えない気持ち悪さに鳥肌が立ち、両手で体を軽く擦る。
「見た目はともかくとして、それならば考えるべきは内面の方か・・・」
「な、内面?」
「そう、内面。詰まるところ、深山君はなっちゃんを見た目で判断してるわけでしょ?元々そんなに関わりだって無かったわけだし・・・。だったら、その見た目以外の部分でどうにかできないかなって、ね?」
ニンマリと、その口角を上げるさっちゃん。そしてそんなさっちゃんを見ながら、不安そうにその表情を歪める内田君。
「私に、考えがあるわ」
「えぇと、それは?」
「うふふふふふふ」
「「「「「・・・・・」」」」」
怪しい笑みを浮かべながら、一人不気味な笑い声を上げるさっちゃん。そんな彼女を何が何でも止めるべきだったのだと未来の私は嘆き悲しみながら思い知ることになるのだけれど、勿論そんなことをこの時の私は知る由もなかったのである。