第23話:残暑
田辺さんたちと別れ、家へと帰ってきた私と雪ちゃん。
「「あ゛っづい・・・」」
夏休みが明けて九月になったとはいえ今もなお太陽はギラギラと輝いており、その凶悪な熱線をモロに浴びた私たちは満身創痍となっていた。
「私、先にシャワー浴びてくるから・・・」
そう言って、まるでゾンビのようにヨタヨタと浴室へ向かっていく雪ちゃん。
「先ずはクーラー点けなくちゃ。それと、雪ちゃんに着替えを持っていってあげないと・・・」
いつもであれば「先に入っていいよ」とか、何なら「一緒に入ろう」とか気遣いなのか揶揄っているのか分かり辛い微妙な言葉を投げ掛けてくる雪ちゃんなんだけれど、今はそれをする余裕すらもないらしい。
「雪ちゃ~ん、着替え置いとくよぉ~~?」
「おぉ~、さんきゅ~~!!」
脱衣所に脱ぎ散らかされた雪ちゃんの衣類を片付け、それらの代わりに彼女の新しい着替えをその場に残し、リビングに戻って全力全開のクーラーで火照ってしまった体を冷やす私。
「あぁ、涼しい・・・」
着ていた制服を着替えることもなく、私はその上体をテーブルの上へと投げ出す。あぁ、もう動きたくないよぉ~~。
そうして私がだらしない格好のままリビングでぐで~っとしていると、下着姿の雪ちゃんが戻ってきた。彼女は私が準備しておいたショーツのみをその体に纏い、瑞々しい肌色を惜しげもなく晒しながら私の眼前へとやってくる。
「夏ちゃんお待たせぇ~」
「・・・・・」
「夏ちゃんもシャワー浴びてきなよ~?」
「・・・・・」
言いたいことは、山ほどある。せめてブラはしろよとか、もう少し恥じらいを持てよとか・・・。
「いやぁ~、やっぱクーラーはいいわぁ~~」
「・・・・・」
「あ゛ぁ゛~、ずずじぃ゛~~」
「・・・・・」
クーラーだけでは飽き足らず、ついには扇風機まで動員し、半裸姿の雪ちゃんは涼み始める。
「雪ちゃん・・・」
「ん?」
「いや、何でもない」
「???」
彼女は、昔っからそうだった。私が女になる遥か前から人前を下着姿のまま平気そうな顔してウロウロしたり、私の眼前でオナラしたり・・・。
まあ、その度に伯母さんから怒られてはいたんだけれど、残念なことにそれは中学二年生の乙女となった今でも改善されなかったようである。雪ちゃんはその辺り開けっ広げというか、無関心過ぎるというか・・・。
「はぁ~」
雪ちゃんへの小言を全て飲み込み、私は着替えを持って浴室へと向かう。そのまま汗みずくとなった制服を全て取っ払い、温い水温のシャワーで体中の汗を洗い流していく。
「ふぅ~」
何だかんだで、手術を終えてからもう二十日ほどが過ぎていた。変わってしまった自分の体を見るのも、それなりに慣れはした。
「・・・・・」
何の気なしに見下ろした私の胸部は、まだ真っ平のままだった。手術を担当してくれた先生の話によると、こちらの方も今後は相応の変化が見られるはずだとのことだったけれど・・・。
「はぁ・・・」
月一の生理のこと、今後訪れるであろう更なる体の変化。今まで親しくしていた人たちとの関係性、そして、新しいクラスメイトたちのこと等々・・・。考えるべきことは、山ほどあった。
「・・・・・」
心の中に溜まったモヤモヤを振り払うように、私はシャワーの温い水を頭から浴びる。
「ぷはっ」
非常に残念なことに、私の体に纏わり付いた不快な汗を気持ちよく洗い流してくれたシャワーの水は、心の中のモヤモヤまでは洗い流してくれなかった。