第227話:平和な、いつも通りの昼休み
部活動というものは、中々に大変である。特に私みたいなやりたいこともなくヤル気もそんなにない人種からすると、彼らが平日の朝早くから朝練したり放課後も遅くまで練習したり、それだけに飽き足らず土日祝日すらもその練習に明け暮れるなんて狂気そのものにしか見えない。
中学生時代にはサッカー部に所属していた私なのだけれど、それは内申的なあれこれが目的だったし、そもそも半強制的に皆何かしらの部活動に入れられてたし・・・。運動好きの陽介的には全然問題なかったんだろうけれど、体力の無かった私には結構キツかったんだよなぁ・・・。
せめて、私にも陽介やともちゃん以外の友達がいれば・・・。あの時、あの頃、勇気を出して幼馴染たち以外の友達を作っていたならば、運動部ではなくて文化部という選択肢があったかもしれないのに・・・。
あの時こうしておけば、もしくはああやっておけば、そう考えてみるのだけれど、時既に遅し。過ぎてしまった時間は決して戻っては来ず、過去はどうやっても変えることができない。
だから、どれだけ悔やんでも仕方ない。過去の自分の行いは、現在の自分ではどうすることもできないのだから。
改めて振り返ってみると、あの頃の私は本当に陽介にベッタリだったなぁ・・・。それはもう一種の依存と言っていいほどにベッタリで、というよりも他に頼れるのはともちゃんくらいしかいなかったし、内向的な私にはそうするしかなかったわけなんだけれど・・・。
でもそんな私のせいで、陽介はいつも私に縛られていて・・・。そのせいで他の男子たちとも思うように遊べず、大好きな運動も十分にできず、その結果自室に筋トレグッズが溢れる筋トレマニアに・・・。
本当に、陽介には悪いことしたなぁ~って思う。もしも私という重しがいなかったならば、彼は何の憂いもなく男友達と遊べただろうし、広いグラウンドで元気いっぱい駆け回れたことだろう。
もしも私という存在がいなかったならば、陽介は筋トレマニアになんてならなかったかもしれない。それに武井君とだって、上手くやれていたかもしれない。
中学生時代に、サッカー部を辞めないで済んでいたかもしれない。高校生になった今だって、最初から正規の部員として試合に出れていたかもしれない。
考えれば考えるほどに、私という存在は陽介にとって邪魔なものに思えてくる。私という存在が、陽介の重しに思えてくる。私さえいなかったならば、私さえ・・・。
「あの、一色さん?」
「・・・・・」
「一色さん?」
「・・・・・」
はっ?!いけないいけない・・・。現実逃避したくて意識を過去へと飛ばしていたのだけれど、過去は過去で中々に酷くて・・・。ついでに見たくもない現実はちっとも変わってなどくれず、今も私の目の前には困惑顔を浮かべた内田君の姿が・・・。
「えぇ~っと、何だっけ?」
「・・・・・」
「ごめんごめん、ちょっとぼぉ~っとしてたっていうか」
「・・・・・」
今日も、いつも通り平和な昼休み時間を過ごすはずだった。イツメンたちと集まって、お弁当を食べてくだらないお喋りをして、そうやっていつも通りの時間を過ごすはずだったんだ。
それなのに、いつも通りの時間は訪れなかった。午前中の授業が終わり、昼休みになって皆でお弁当を食べて、そうして残り時間をのんびりと過ごそうって思っていたその時、彼が現れたんだ。
「急に呼び出しちゃって、本当にゴメン。でも、どうしても一色さんと話しておかなきゃって思って」
私を呼び出した人物、それは、峰島中学時代のクラスメイトであり、中学生時代も高校生になった現在もサッカー部員として元気にグラウンドを駆け回る男子、内田君・・・。彼は陽介の友達の一人であり、かつて私に告白してきた同学年の男子である深山君の友達でもあり、そんな彼が私の正体について色々と勘ぐっているという情報を私は陽介経由で知っているのだけれど。
そんな内田君が、私を呼び出す理由。それは、深山君同様私に対する愛の告白なんてことはないだろう・・・。彼は私がかつて男子であったということを恐らく知っているだろうし、そのことについてある程度の確信を持っている感じだから。そんな彼が私を呼び出した理由・・・。それはきっと、私にとってはロクデモない理由の可能性が高いわけで・・・。
「突然、こんなこと訊くのは失礼だって解ってる。だけど・・・」
今の私は、どんな表情を浮かべているのだろう?困惑しているのかな?それとも、泣きそうな顔でもしてるのかな?
分からない・・・。自分でも、今の自分自身の感情が分からない。でも、一つだけ分かることがある。それは、次に彼が投げ掛けてくるだろう言葉・・・。
「一色さんて、夏姫さんて、峰島中学にいた、一色 夏樹、だよね?」
・・・・・。あぁ、やっぱりな・・・。