第225話:罰ゲーム
戦いとは、始まる前にその勝敗がほぼほぼ決まっているものらしい。勝負事には前準備が必要不可欠であり、その準備状況次第で有利不利が確定し結果が決まってしまうのだとか・・・。
だからつまり何が言いたいのかというと、今までの私は戦いが始まるその前から既に負けることが運命づけられていたというか、そもそも弱いカードが配られた時点で勝ち目なんてなかったというか・・・。
だけど、今回の私は違う。私の手元には、強いカードが三枚もある。だから・・・。
「はい。今回もなっちゃんの負けね?」
「・・・・・」
「じゃあ、罰ゲームは何にしよっか?」
「・・・・・」
もう一度言おう。戦いとは、始まる前にその勝敗がほぼほぼ決まっているらしいのである。今回の戦いでは強カードを三枚も持っていた私ではあるのだけれど、そもそも私は自分の手札を勝負が始まる前にフルオープンにしてしまっていた。つまり、相手視点私の手札は透け透け状態であり、それ故に私が繰り出す作戦は悉く躱されて、その結果がこれである。
「もう、煮るなり焼くなり好きにしてください。どうせ私は、一勝もできないままで終わるんだから」
「「「・・・・・」」」
せっかくの勝ちのチャンスを、自身の行いによって潰してしまっていた私。そんな私は色々と遣り切れなくなって、ふかふかな絨毯へとその体を投げ出しそのままゴロゴロと意味もなく転がる。
「あぁ~あ。なっちゃんが拗ねちゃった」
「まあ、今までほぼほぼ全敗だからね・・・」
うぅ~、グスン・・・。
「それはそれとして、罰ゲームは実行しないと」
「そうだね。それじゃあ何にする?次の罰ゲーム」
私が一人絨毯の上をゴロゴロとしている間、三人は敗者への罰ゲームについて話し合っていた。今まではニワトリのマネとかゴリラのマネとかまあまあ酷かったのだけれど、今回はもっと優しめなものでお願いしますほんとぉ~に頼みますマジで!!
「うし、それじゃあなっちゃん。今からあなたへの罰ゲームを発表します」
・・・・・、ゴクリ・・・。
「今回のなっちゃんへの罰ゲームは、私たちのことを下の名前で呼ぶこと!!」
・・・・・、へ?それって、どういうこと?
「いや、どういうことも何も、そのまんまな意味だけど・・・。てか、なっちゃん、私たちのことを未だに苗字で呼ぶじゃん?もう、お泊り会を開くほどの仲なのにさ」
それは、そのぉ・・・。
「なっちゃんが下の名前で呼ぶのって、知美と彩音くらいだよね?あとは、愛しの陽介君のこととか」
真鍋さんと甲山さんの瞳が、私の顔を凝視している。そしてそんな二人の瞳に映る私の顔は、きっと困惑していることだろう。
「え、えぇ~っと、いいの?その、下の名前で呼んでも?」
だって私は、女だけど女じゃなくて・・・。何ていうか、色々と中途半端な存在で・・・。
「彩音は、何て言ってたの?」
「それは、えぇ~と・・・」
彩音ちゃんたちには、寧ろそう呼んでほしいって言われたっていうか・・・。でもまあ、それは私が元男子だって話をする前の話で、だから・・・。
「そんなこと、今更でしょ?だって私たち、一緒にお風呂まで入ったんだからさ」
いやまあ、それはそうなんだけど・・・。
「今のなっちゃんは、今のなっちゃんじゃん?昔のなっちゃんじゃなくて、今のなっちゃんじゃん?だから、ね?昔がどうとか、そんなのはどうでもよくてさ」
それだけ言うと、眞鍋さんは私の方へとにじり寄ってくる。同様に甲山さんも、私の方へとにじり寄ってくる。
「私たちはさ、もうズッ友なわけよ。親友なわけよ。だからさ、今日だけじゃなくて、これからは私たちのことも下の名前で呼んでよ。ね?」
真鍋さんにそう言われて、甲山さんからも頬を突かれて・・・。
「それじゃあ・・・。さ、さっちゃん?」
「うんうん」
「それと、美月ちゃん?」
「うむうむ」
その後の私はニマニマ顔の三人から散々揶揄われつつベタベタされ、実に気マズい夜を過ごすことになるのであった。