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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十一章:冬の始まり
220/241

第220話:ビールとつまみと夜の静寂

 隣の部屋から、大人たちの笑い声が聞こえてくる。久しぶりの仲良しグループでの旅行でテンションが上がった彼等は子供たちそっちのけで盛り上がっており、今は追加で注文したビールを片手に昔話に花を咲かせているところなのだ。

 一方の私はというと、盛り上がる大人たちとは対照的に隣の部屋でぼけ~っとしていた。こんな時はテンション爆上げで夜中まで騒いでいそうなともちゃんは疲れのためなのか既に夢の中であり、私は陽介と共に窓際に設置された椅子に腰掛け何をするでもなく真っ暗な外に視線を向けていたのである。


「「・・・・・」」


 普段絶対に着ることのない浴衣に身を包み、目の前のテーブルに肘を突きながら私同様ぼけ~っとする陽介。テレビを見るわけでもなくスマホを弄るわけでもなく、隣の部屋から聞こえてくる大人たちの声をBGMに私たちはゆったりとした時間を過ごす。


「ねえ、陽介?」

「・・・・・、何だ?」

「陽介は、将来就きたい仕事とかある?」

「・・・・・」


 私の質問に、陽介は考える素振りをする。


「う~ん、そうだなぁ~。昔は、体育の先生とか考えてた時もある」


 陽介はそれだけ言って、隣の部屋へと意味深な視線を飛ばす。


「でもまあ、それも難しいのかなって。夏姫のご両親とか見てると、尚更な」


 昔から、陽介は体を動かすことが好きだった。だから、体育の先生という答えは解る気がする。

 ただ同時に、陽介は私の両親が忙しいことを知っているから。小さい頃の私は休みの日とかに陽介の家やともちゃんの家によく預けられたりとかしていて、そんな実情を知っている陽介としては色々と思うところがあるのだろう。


「だから正直な話、今は具体的な職業は出てこないかな。今は漠然としてるっていうか・・・」

「・・・・・、そっか・・・」

「そういう夏姫は、何かあるのか?将来就きたい仕事」


 陽介に問われ、私は答える。


「私も、今は何もないんだよねぇ~。将来就きたい仕事」

「・・・・・」

「最近、母さんたちからちょくちょく訊かれててさ・・・。再来年には高校も卒業だし、だから・・・」


 この世界には、本当にたくさんの仕事があるらしい。そして、その中で私たちの目に留まる仕事は極々一部だけ・・・。


「スパイって、本当にいるのかな?」

「いるんじゃないか?もっとも、どんくさい夏姫には無理だろうけど」


 ・・・・・。


「じょ、女医さんとかどうかな?何か、カッコよくない?」

「カッコイイかどうかは人によるだろうけど、そもそも夏姫、血とかダメだろ?」


 ・・・・・。


「話は変わるんだけどさ、最近、部活の方はどうなのよ?」

「部活?」

「そう、部活」


 私は、陽介の瞳を見つめながら問いかける。


「今も、(仮)のままなんでしょ?それだと、試合とかに出れなくない?」

「・・・・・」


 当初は、先輩たちに誘われてそれを断り切れず(仮)状態でサッカー部に所属することになった陽介。それは先輩たちが弱弱なサッカー部の立て直しを進めるために、実戦で力を発揮できる即戦力を求めた結果らしいのだけれど・・・。

 とはいえ、サッカー部には上手い下手問わず様々な力量の正式部員たちがいる。そして彼等の大部分は毎日のように真面目に練習に取り組んでいるわけで、そんな彼等を押し退けて(仮)状態を続ける陽介が試合に出るのはあまりにも体裁が悪過ぎるのだ。


「もしも、もしもだけどさ・・・。私のためとか、それで(仮)を続けてるのだとしたら、それは止めてほしいっていうか・・・」

「・・・・・」

「私の秘密を守るためにとか、他にも色々お世話になってきたから偉そうなこと言えないんだけどさ。でも、陽介にも好きなことしてほしいっていうか」

「・・・・・」


 武井君とのこととか、内田君や深山君とのこととか、他にも色々・・・。私という複雑な事情を抱える幼馴染がいるせいで、陽介がこれ以上窮屈な思いを続けるのは、それは違う気がする。


「私はもう、大丈夫だから・・・。私にはともちゃんがいるし、他にも友達がいるし・・・」


 だから、だから・・・。


「そっか」

「・・・・・」

「夏姫がそう言うなら、考えてみるよ」

「・・・・・。うん・・・」


 それっきり、私たちの会話は途切れてしまうのだった。

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