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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十一章:冬の始まり
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第219話:湯けむり

 時は流れ、十一月も残り僅かとなった。ギリギリマフラーが要らなかった初冬は終わり冬本番を迎え、今はもうコート含めた防寒装備が必須となっている。

 そしてそんな冬真っ盛りな十一月末の土曜日に、私たちは三家族合同での旅行に来ていた。先々月辺りから計画し、私の両親が無事休みを取れたことで全ての障壁が取り払われたその計画は今、実行に移されたのである。


「「ふはぁ~~」」


 各家の車に分乗し、長い時間をその中で過ごした。揺れる車の中でうつらうつらしている間に、辿り着いた。

 そうして私たちがやって来たのはとある温泉宿。日中は宿の近場を軽く散策して美味しいものを食べ日が暮れた今は宿に併設されている温泉に浸かり、溜まりに溜まった疲れとかストレスを洗い流していく。


「温泉とか、修学旅行以来だわ」

「そうだねぇ~」

「てか、なっちゃんと一緒にお風呂入るのホント久しぶりな気がする」

「・・・・・」


 それはそうだろう。だって、ともちゃんと一緒にお風呂に入ったのなんてもう十年近く前になるのだから。


「何だか、懐かしいね?」

「そ、そうだね・・・」

「うふふふふ」

「・・・・・」


 隣り合って湯船内にある段差へと腰掛け、やや熱めのお湯に体を沈める私たち。そんな私たちの目の前を、大学生くらいの若い女性のグループが横切っていく。


「もう、慣れた?」

「・・・・・。慣れたって、何に?」

「そりゃあ、色々とよ」

「・・・・・」


 タオルでその体を隠すことなく、全裸姿で寛ぐ女性たち。そんな彼女たちに意味深な視線を向けながら、ともちゃんは尚も語りかけてくる。


「ぶっちゃけさ、どっちが好きなの?」

「・・・・・。どっちって?」

「男と、女」

「・・・・・」


 それは、どうなのだろう・・・。


「女の人の裸を見て、興奮する?」

「・・・・・」

「私の裸とか、実際問題どうなのよ?」

「・・・・・」


 視線の先の女性たちから目を逸らし、私はその視線を天井へと向ける。


「ほらほら、ねえ?」

「・・・・・」

「ほらほらほら」

「・・・・・」


 ともちゃんの柔らかな胸が、私の腕に当たっている。その豊かな胸の先にある硬い突起が、私の肌を刺激する。


「正直、よく分からない」

「・・・・・」

「女の人の下着姿とか裸にはある程度慣れたけど、気マズいのは今も変わらないし」

「ふ~ん?」


 その答えに一先ずは納得したのか、ともちゃんの質問攻勢は終わった。あとは体の密着とか私の体を撫でまわすその手とか、その辺も一緒に止めてもらえると助かるんだけど。


「ともちゃんはさ、男の人が好きなの?」

「・・・・・」

「ともちゃんはさ、男だった私が好きだったの?」

「・・・・・」


 私の体を撫でまわしていたその手が、止まる。ともちゃんはその手で私のお尻を摘まみ、ジト目を私に向けてくる。


「それ、今更訊く?」

「・・・・・」

「はぁ~、まあ、いいけどさ」

「・・・・・」


 私のお尻を摘まんでいたともちゃんの手はその場を離れ、そのまま今度は私のほっぺたをグニグニし始めた。


「前にも言ったと思うんだけどさ・・・。私は、なっちゃんが好きなんだよ。最初の頃は勿論男としてのなっちゃんが好きだったんだけど・・・。でも今はもうそれは関係なくて、私はなっちゃんのことが好きなの。男とか女とか関係なく」


 その言葉は、真っすぐで・・・。あまりにも真っすぐで愚直なそれに、私は言葉を返せなくて・・・。


「まあ、フラれちゃったんだけどね?」

「・・・・・」

「この野郎」

「・・・・・」


 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、ともちゃんは私にデコピンしてくる。


「だからまあ、実は私もよく分かんないや。私が好きなのはなっちゃんだけだから、男とか女とかさ」

「・・・・・」

「でもまあ、そうだなぁ~。いつの日かなっちゃんも、素敵な恋ができるといいねぇ~?男とか女とかじゃなくて、特定の誰かとさ?」

「・・・・・」


 そこで、私たちの会話は止まってしまった。私はどう言葉を返していいのか分からなくて、意味深な瞳を向けてくるともちゃんの顔を直視することができないでいたのだ。


「そろそろ、上がろっか?」


 だから、ともちゃんのその提案は本当にありがたくて・・・。


「私、そろそろのぼせそうだし・・・」


 少しだけクラクラとする頭を軽く振りながら、私は幼馴染と共に脱衣所を目指したのだった。

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