第217話:悔恨
その日の授業が全て終わり、放課後になった。いつもであれば部活動組に別れを告げ、そのまま家を目指す私とともちゃん。
でも、その日は違った。その日は何となくサッカー部の様子が気になり、私はともちゃんと共に教室で暫く時間を潰してからグラウンドの様子がよく見える廊下へと移動したのだ。
「おうおう、やってるねぇ~」
廊下の窓枠に手を置いて、遠くで走り回るサッカー部員を眺める私たち。
「今日は、サッカー部が優先の日なのかな?」
以前グラウンドの端からサッカー部の練習を眺めた時は、確か陸上部が優先の日だった気がする。
「こうして見ると、やっぱ運動部って大変だよね。練習場所とかさ」
グラウンドを使うのは、サッカー部以外にも野球部と陸上部がある。体育館を使う部活動も、似たような感じで競合しているらしい。そして以前眞鍋さんの思い人であった上月先輩が所属するテニス部でさえも、ソフトテニス部と練習場所が競合しているのだとか。
「まあ、ウチは普通高校だし、学校として部活動に力を入れているわけじゃあないからね」
そもそも論になるのだけれど、先輩たちから聞いた話や先生たちの態度を見るに、学校としては寧ろ部活動そのものを邪魔者扱いしている節さえある。
「中学時代は、先生たちもノリノリで部活やってた気がするけどなぁ~。特に池田先生とか、バドミントン部顧問の斎藤先生はちょっと違ったけどさ」
「・・・・・」
自他共に認める運動音痴で、ともちゃん含む部員たちからは小柄で優し気な見た目故に舐められていたあの女先生は、今も元気にしているだろうか・・・。
「先生って色々と大変なんだからさ、優しくしてあげてよ」
「うん、分かってるってば」
軽口をたたき合い、それでもグラウンドから視線は外さず・・・。
「おっ、陽介だ」
「えっ、どこ?」
「ほら、あそこ。あそこでリフティングしてる男子」
「・・・・・」
ともちゃん、あんなにゲームしてる割りにホント目が良いな・・・。
「ねえ、もう飽きた。つまんない」
・・・・・、そっか・・・。
「帰ろっか?」
「うん」
紅白試合をするわけでもなく、ただひたすらに基礎練習を続ける部員たち。確かにそれは、見ていて面白い物ではないだろう。
でも、あともう少しすれば流石に試合形式の練習も始まると思うんだよねぇ~。何しろ今日は、だだっ広いグラウンドを優先的に使える日なんだから。
「中学の時も、ずっとあんな感じだったの?」
「う~ん、そうだなぁ~。中学の時はもうちょっと試合形式の練習が多かったかなぁ~」
他の部活との競合でグラウンドが満足に使えないのは今と変わらないのだけれど、だからこそ朝練とかでちょっとした紅白試合なんかをして、それで飽きさせない工夫を池田先生はしていたんだと思う。
「実際陽介は、楽しそうにしていたよ。最初のうちは、だけどさ」
私と違って、体を動かすことに無類の喜びを感じるらしい陽介。そんな彼は、広々としたグラウンドを楽しそうに駆け回っていたのだ。
「近くの公園じゃ狭いしね」
「そうだね。それに、あそこはそもそも走り回るの禁止だから」
私の幼馴染の一人である陽介。そんな彼がサッカー部(仮)という中途半端な状態で部活動を続けているのは、きっと私のせいなのだ。本当は(仮)なんかじゃなくて、ちゃんとした正式な部員としてグラウンドを駆け回って、試合にだって出たいはずなのだ。
「あぁ~、寒っ。早く電車来ないかなぁ~」
「・・・・・」
小学生時代は私のせいで男友達とあんまり遊べなくて、中学生時代は武井君との一件でサッカー部を辞めることになって、そして今も特殊な事情を抱える私を気遣って色々と裏で動いてくれて・・・。
私がこんな状態でさえなければ、武井君とのことだってもう少しどうにかなったはずなのだ。内田君や深山君、その他仲の良い男子との時間だってもっと作れたはずなのだ。
「おっ、来た来た!やっと来た!!」
私はそろそろ、優し過ぎる幼馴染への依存を、止めるべきなのかもしれない・・・。