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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十一章:冬の始まり
214/241

第214話:難しい・・・

 恋というものは、難しい。それは確かに存在しているものなのだろうけれど、でもそれは不定形で、人によって形が違っているものなのだ。

 確たる形がないから、皆迷う。どうすればよいのか、何が正解なのか分からずに惑い苦しむ。自分の気持ちを上手く伝えられなくて、相手の内心が全く読めなくて、だから怖くて・・・。


 私自身、今まで色々な恋物語を見聞きしてきたのだけれど、実際問題リアルなこの世界においてそれがどういったものなのか、正確に理解しているとは言い難い。それは私がまだ恋というものをしたことがないからなのだけれど、それがどういった感情を想起させるのか、私自身にどのような変化をもたらすのか、今も尚不明なままなのだ。


 文字情報として、知識としてのそれは知っている。だけれど、私の心が、感情が、それを理解できていない。実感できていないのだ。


 好きな人は、たくさんいる。それは例えば母さんとか父さんとか、他にも幼馴染たちとかクラスの友達とか・・・。でもそれはLOVEじゃなくてLIKEで、だからそれは恋じゃなくて・・・。

 どこからがLOVEでどこまでがLIKEなのか、それも判然とはしない。でもたぶん、私はまだLOVEを知らない。私のこの感情はLOVEなんかじゃなくて、きっと恐らくたぶん、LIKEなのだろう。


「・・・・・」


 ベッドの上をコロコロと転がりながら、私はスマホを操作する。その画面には男女の恋愛模様を描いたweb小説が表示されており、それを流し見ながら私は零すつもりのなかった溜息を無意識に零す。


「はぁ・・・」


 創作物を、創作物として楽しむことはできる。創作物の中の恋愛というものを、そういうものなのだと認識して想像することはできる。

 だけれど、それだけなのだ。そこから先が、私にはないのだ。現実世界において自分自身が特定の誰かに恋をして、その先に進む姿をどうしても想像できないのである。


 以前、桜ちゃんに唆されてとあるエロサイトを覗き見した時、私は酷く後悔した。それはあまりにも生々しくて生臭くて、あの時の私には刺激が強過ぎたのだ。

 あの行為は恋の先にあるものであり、それこそ子供をもうけるのには必須の行為でもあり、世の中のお父さんお母さんたちは皆経験してきているはずなのだけれど。それを見た私の心の中に浮かんできた感情は不快と嫌悪と、そして、恐怖だったのだ。


「恋をして、付き合って・・・。結婚して、そしたら・・・」


 真鍋さんは、昔から恋愛物の話が好きだったらしい。それはドラマであったり漫画であったり、アニメであったり小説であったり・・・。

 そのお話の中にはたくさんの魅力的な王子様がいて、それと同時にたくさんのヒロインもいて・・・。彼等彼女等は私たちの手が届かない世界で魅力的な恋愛模様を繰り広げ、大抵の場合は幸せな結末を迎える。


 そんなハッピーな恋愛を、眞鍋さんは欲していた。眞鍋さんは普段の言動からは想像できないくらいに乙女脳であり、恋に恋する彼女は理想的な王子様を現実世界で求めていたのである。

 キラキラと輝いていて、誰もが羨むほどに幸せそうで・・・。一緒にいるだけで楽しくて、どこに行くにも二人一緒で・・・。


 でも、そんな真鍋さんは理解しているのだろうか?その先にあるものを、恋して付き合って結婚して、その先に待ち受けているであろうあの生々しい行為を・・・。

 あの行為は、恐らく避けては通れない。付き合って結婚して二人で一緒に生きていくのであれば、いずれは経験することになるだろうあの行為・・・。


 私は、自分自身のそれを想像することができない。誰かとあのような恐ろしい行為をするところを、想像することができない。

 だからこそ、恋をして付き合って結婚して、そんな自分を想像することができない。そもそも、したいとも思えない。


 元々は男として生きてきて、途中からは女として生きることになって・・・。だからこそ余計に混乱して、頭も心もこんがらがって・・・。


 私に告白してきた時ともちゃんは、どう思っていたのだろう。当時の彼女は男子だった私に思いを寄せていたらしく、そうなると当然最終的にはそういったところまで行き着くのだろうけれど・・・。

 ともちゃん同様私に告白してきた深山君の内心については、考えないようにしよう。何ていうかその、私の精神衛生上それはとてもよろしくない気がするから。


「はぁ・・・」


 考えても考えても、私の中で答えは出ない。眞鍋さんの件を切っ掛けに今後に備えて色々と考えてみたのだけれど、やっぱりよく分からない。


「眞鍋さん自身も、恋は暫く自粛するって言ってたけど・・・」


 読みかけのweb小説をブラウザごと閉じて、私はスマホを机の上へと戻す。そのまま再びベッドの上へとダイブし、無意味にその上をゴロゴロする。


「もう寝よ。何か、疲れたし・・・」


 私は考えることを放棄して瞳を閉じ、そして、そのまま深い微睡みの中へと意識を投げ出したのだった。

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