第213話:初デート???:その結果やいかに・・・
週末明けの月曜日の昼休み、私たちはいつも通り五人で駄弁っていた。その話題の中心は勿論眞鍋さんのデートの話であり、当然そうなるものだと私は信じて疑わなかったのだけれど・・・。
「でねでね?『二人の王子様はドM』って本が私のイチオシでね?」
えぇ~っと、何だって?
「会長曰く、あの本には受けの真髄が書いてあるんだって」
う、受けの真髄???
「あれは、BLの中でも入門書的なシリーズだからね」
「そうそう!会長もそう言ってた!!」
・・・・・。
「結局、何冊買ったの?」
「えぇ~っと、確か十冊くらい」
「へぇ~?結構買ったじゃん」
「まぁね?会長に色々と教えてもらったし、せっかくの機会だったから」
良い笑顔で、答える眞鍋さん。同様に良い笑顔で、サムズアップする彩音ちゃん。
「ねえ、ちょっと訊いてもいい?」
「ん?何?」
「他には、どんな本があるの?その・・・、お勧めっていうかさ・・・」
あの、甲山さん?さっきから何をメモってらっしゃるんです?
「他にはぁ~、『意地悪な先輩と意気地なしの僕」とかぁ~」
「あぁ、それもまたメジャーどころだねぇ~」
「そうそう!!他にもぉ~、『俺様男子たちの湯煙事情』とか」
「おぉ~、それはちょっとマイナーかも?」
唐揚げを、頬張る。ついでに白米も、頬張る。てか、鈴木君の話どこ行った?!
「あ、あのぉ~?」
「ん、何?」
「えぇ~と、結局デートはどうなったの?」
「え?デート?」
ポカンと、虚を突かれたような表情を浮かべる眞鍋さん。
「先週、デートに着ていく服とかどうしようって言ってたじゃん?だから、鈴木君とはどうなったのかなぁ~って」
卵焼きを頬張りながら、眞鍋さんは考えるような素振りをする。
「私さ、思ったんだよね・・・。恋愛とか、別に焦んなくてもいいかなぁ~って」
「・・・・・、え?」
「いやさ、考えてみてよ?上手くいくかも分からないリアルなんかよりも、夢見させてくれるフィクションの方が数百倍楽しいじゃん?」
そ、それは・・・。
「私さ、昔っから漫画とか本読むのが好きで・・・。ドラマとかも好きで・・・。でもさ、その中で演じられる恋模様なんて、現実ではないわけじゃん?」
真鍋さんはそう言って、残っていたミニトマトを口の中へと放り込む。
「私はさ、自分だけの王子様を探していて、でもそんなもの現実にはいなくて・・・。だけど諦められなくて、創作物の中のヒロインみたくなりたくて・・・」
「・・・・・」
「でも、ちょっと疲れちゃったっていうか・・・。文化祭の時とかも頑張ったんだけど、それだけじゃ全然どうにもならなくて」
「・・・・・」
どこか擦れたような、そんな表情を浮かべる眞鍋さん。
「ここだけの話にしてくれる?」
「え?う、うん・・・」
「鈴木君、彼女がいるんだよ。しかも、とびっきりの美人さんがさ」
「「「「え?」」」」
それは、初耳っていうか・・・。
「書店巡りしてさ、お昼にファミレス寄ったわけ。そこで、会長が鈴木君にモデルの話をしたんだよ。勿論、会長オリジナルのBL本のね」
「「「「・・・・・」」」」
「そしたら鈴木君、彼女がいるから無理だって。万が一にも自分の彼女にそれが見つかったら、色々とよろしくないからって」
「「「「・・・・・」」」」
証拠として、鈴木君はスマホの待ち受けを見せてきたらしい。そこに映っていたのは、仲睦まじそうに微笑む二人の男女の自撮り画像で・・・。
「彼女とは幼馴染で、高校進学を切っ掛けに付き合い始めたらしいんだ。はは、笑っちゃうでしょ?私はそれを知らなくて、ずっとずっと独り相撲でさ」
空になった弁当箱を、意味もなく箸で突き回す眞鍋さん。
「本当に笑っちゃうよ。ははは・・・」
その目は次第に虚ろになり、表情は消えていき・・・。
「はははははは・・・」
「「「「・・・・・」」」」
どうやら私は、特大の地雷を踏み抜いてしまったらしい・・・。