第211話:初デート???:実践編
今の季節は、冬・・・。まだ冬本番というわけではないから、冬といっても初冬って感じなのだけれど・・・。
そんな初冬の週末に、眞鍋さんはスタイリッシュなパンツルックで勝負に出ていた。彼女はタイトなパンツスタイルによって豊かなボディラインを前面に押し出し、鈴木君を篭絡する作戦なのだ。
「どうなるかな?」
「さあ?」
「さっちゃんの作戦、上手くいくと思う?」
「いや・・・、上手くいくも何も、今日のはそもそもデートじゃないしね」
私たちは、眞鍋さんの様子をちょっと離れた場所から見守っている。別に眞鍋さんから着いて来てほしいと頼まれたわけでもないのだけれど、面白そうだからと甲山さんに誘われ集まったのである。
「眞鍋さん、大丈夫かな?」
「いや、あれはダメそう・・・」
いつも私たちが集まる駅前とは別の駅前広場で、眞鍋さんは遠目でも分かるくらいにソワソワしていた。この周辺は私が雪ちゃんの家でお世話になっていた時にそこそこ訪れていたのだけれど、そんな場所で眞鍋さんは完全に落ち着きをなくしていたのだ。
いつもであれば、大きな胸を張り自身に満ち溢れた笑顔で私たちを引っ張ってくれる眞鍋さん。しかしながら、視線をあちらこちらへと無秩序に飛ばし体を小さく縮めて自信無さげに佇んでいる今の彼女からは、いつもの覇気が感じられない。
それはまるで、さながら初めてのお使いを頼まれた幼子のようだ。いつもよりも数段頼りなく映る彼女はただただか弱く儚げで、そして、そんな彼女に近付いてくる一つの影・・・。
「ゴメンね?急に呼び出しちゃってさ」
それは、鈴木君だった。
「う、ううん・・・。大丈夫・・・」
待ちに待ったはずの思い人からの声かけに、眞鍋さんは頬を薄っすらと朱に染めつつモジモジしている。
「じゃあ、行こうか?枕崎さんとは書店で待ち合わせしてて、そこで合流する予定だからさ」
「・・・・・、うん・・・」
二人は横に並んだまま、その場を離れていく。眞鍋さんは両手足をぎこちなく動かしながら、鈴木君は疲れ切ったような表情を浮かべながら・・・。
「じゃあ、追跡開始だね」
「うん」 「おう」
「さてさてさて、一体どうなることやら」
先頭を、目と耳の良いともちゃん。中間に、どんくさい私。そしてしんがりは、甲山さん・・・。
「うぅ~む、いい尻だ」
「・・・・・」
「むふふふふ」
「・・・・・」
こ、甲山さん?
「ん、何かな?」
「いや・・・、お尻を揉まないでほしいっていうか・・・」
「むふふふふ」
そうして私たちが辿り着いたのは、駅前から近い書店の一つ。
「どう、ともちゃん?」
「ダメ、ここからじゃ遠過ぎて、声が聞こえない・・・」
バレるわけには、いかない・・・。だってこれは、秘密のミッションだから・・・。
「もう少しだけ、近付いてみる?」
「いやぁ・・・、流石に厳しいんじゃない?」
「でも、一応変装もしてるしさ」
今日の私たち三人の服装は、ニット帽とサングラス、更にはマスクまでして完全に顔を隠した身バレ防止スタイル!!
「ねえ、今更なんだけどさ・・・。私たちの格好って、怪しくない?」
「「・・・・・」」
そ、そんなことは・・・。
「てか、店員さんがめっちゃ見てる」
「「・・・・・」」
「もしかして、万引き犯とかに思われてる?」
「「・・・・・」」
私たちはそっと、サングラスを外す。でも、マスクはもうちょっとだけキープだ!!
「もうちょっと、もうちょっとだけ近付いて・・・」
そして、ニット帽とマスク姿のまま、私たちはターゲットの元へとにじり寄っていく。
「でね?これが話してた新刊で、こっちのが・・・」
そうして三人へと近付いて、そこで私たちが見たものは・・・。頬を真っ赤にしながら興奮した様子のBL普及委員会会長と、これまた頬を真っ赤に染めながらモジモジし、手に持った本をマジマジと見つめる眞鍋さんの姿だった。