第210話:初デート???:準備編
「ねえ、今度の週末のデート、どんな服を着ていけばいいと思う?」
「「「「・・・・・」」」」
「ねえ!!」
今は、昼休み時間。今は、授業の合間にあるそこそこに長くてゆっくりできる自由な時間。そんな私たち学生にとって数少ない癒しの時間に、眞鍋さんは大声を上げていた。
「「「「「で、デート?!」」」」」
どうやら、デートという私たち学生にとっての非日常的なワードに、クラスメイトの数人が反応してしまったようだ。
「ちょ?!あんた、声がデカいって?!」
そして、そんなクラスメイトたちの様子に慌てた甲山さんは眞鍋さんの頭を引っ叩き、彼女の暴走を押し留めた。
「服なんて、好きなの着てけばいいじゃん?てか、そもそもデートじゃないんだしさ」
頭を擦る眞鍋さんを冷めた眼差しで見つめながら、ともちゃんはそう語る。他人の恋にはそこまで関心のない彼女にとって、この件は心の底からどうでもよいのだろう。
とはいえ、眞鍋さんはともちゃんにとって親友のハズ・・・。だから、もうちょっと穏便な言い方を・・・。
「と、ともちゃん。もうちょっと言い方が・・・」
「えぇ~?」
「デートじゃないのはそうなんだけどさ、でも、もうちょっと婉曲的な言い回しをさ?」
私はそう言いつつともちゃんを窘めようとして、そのまま眞鍋さんにほっぺたを両手で潰された。
「デートだから」
「・・・・・」
「今度の週末のは、デートだから」
「あ、ひゃい・・・」
しまった、つい口が・・・。
「この」
「うにゅ・・・」
「このこのこの・・・」
「うにゅにゅ・・・」
そうして一通り私のほっぺたをグニグニした眞鍋さんは、再び姿勢を正した。
「で、どんな服がいいと思う?ねえ、あやっち?」
「いや、好きなの着てけば?」
「・・・・・」
「そもそも私、デートとかしたことないからそういうの分かんないし」
「・・・・・」
彩音ちゃんの返答は、実に素っ気ない。でもまあ、ここにいる皆がデートなんてしたことないのは事実なので、実際問題あまり参考にはならないかもね。
「ネットとかで調べれば?デートで着てく服」
だから、とりあえず私は現実的な提案をする。スマホを使ってネットで適当に検索を掛ければ、それっぽい画像が万単位で出てくるだろうから。
「それはもうやった。でも、コーデのパターンが多過ぎて、結局どれを着ていけばいいのか分かんない」
「「「「・・・・・」」」」
「ふわモコ?スタイリッシュ??ちら見せ???結局どれが一番いいわけ?!」
「「「「・・・・・」」」」
そんなの、知らんがな・・・。
「お、お姉さんに訊いてみるのは?眞鍋さんのお姉さん、服とかに詳しそうだし・・・」
何故か無駄に完成度の高いメイド服とかゴスロリとか作れる人だし、私たちよりもよっぽど参考になるのでは?
「それは、ちょっと・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「何か、恥ずかしいし・・・」
「「「「・・・・・」」」」
いや、そんなこと言われても・・・。
「ねえ、なっちゃん!!」
「な、何?」
「今日家に帰ったら、本田君に訊いといてよ!男子はデートの時、女子にどんな服を着てほしいかって!!」
「えぇ・・・」
ま、マジで?
「うん!マジで!!」
そうして、平和な時間は過ぎていく。
「あ、もしもし。陽介?」
「ん、どうした?また武井先輩の話か?」
「いや、そうじゃなくてさ・・・」
ちょっと、つかぬ事を訊きたいんだけど・・・。
「陽介ってさ、どんな服の女性が好みなの?」
「・・・・・、え?」
「いや、ちょっと色々あってさ。だから、教えてほしいっていうか」
「・・・・・」
ふわモコ?スタイリッシュ??それともちら見せ???
「夏姫、おまえ、熱でもあるのか?」
「え?」
「そもそも、俺に女物の服のこととか訊かれても、分かるわけないだろ・・・」
「・・・・・」
そうして、更に平和な時間は過ぎていって・・・。ついに、その日が訪れてしまったのだった。