第208話:秋の味覚
武井先輩のことについて相談するべく、訪れた幼馴染の部屋。そこは昔から変わらずお洒落とは無縁の武骨な部屋であり、そんな男臭い部屋で今、私たちは例の件について話し合っていた。
「武井のお姉さんか、面倒だな・・・」
私たちの正面に座る陽介は渋い顔をしながら、そう呟く。
「内容については、昨日話した内容であってるんだよな?」
「うん、そうだよ」
「そうか・・・」
カーペットの敷かれた床の上に、直置きされたお盆。その上に載っていたお皿から、私はシャキシャキの梨を一欠片手に取る。
「ひょうしゅけ、ひょうふぃよう?」
「・・・・・」
「はむはむ。ごくっ」
「いや、食べるか話すかどっちかにしろよ・・・」
じゃあ、遠慮なくもう一個。
「眞鍋さんたちにも、この件は話したんだろ?」
「はむはむはむ」
「・・・・・」
「うむ、美味い」
「・・・・・」
陽介が、呆れたような視線を私に向けてくる。ついでに、私同様梨に夢中なともちゃんに非難めいた視線を向けている。
「「はむはむはむ」」
「・・・・・」
「「むぐむぐむぐ」」
「・・・・・」
ふぅ~、美味い。
「ごくん、ふぅ~」
「・・・・・」
「いやまあ、一応午前中に皆で集まって話すには話したんだよ。でも、特に妙案も浮かばなくてさ、一先ず様子見にしようってなって」
「・・・・・」
これは昨晩の陽介との遣り取りでもそうなってしまったのだけれど、結局のところ今の私たちにできることはあまりない。先輩とは学年も違うし特別に親しいわけでもないから、そもそも接点が無さ過ぎて話しかけることすら難しいので仕方がないのである。
そんな状況下で無理矢理にでも接触を図ろうとすれば周りから訝し気な視線を向けられるだろうし、その話が武井君本人の耳にでも入れば尚の事状況は悪化してしまう。それに、私はあくまでも夏樹イコール夏姫を否定している立場なので、この件で必要以上に先輩と話をするのは悪手な気がするのだ。
「だけどさ・・・。そうなると今度は、この話が陽介に行くと思うんだよね。それはそれで面倒でしょ?」
「むむぅ・・・」
陽介は眉間に皺を寄せ、実に渋い顔をしている。そんな陽介の隣ではともちゃんが一息で麦茶を飲み干し、能天気そうな顔でお代わりを要求している。
「おまえは、気楽そうでいいな?」
「いや別に、気楽ってわけじゃあないよ?私だって、色々と考えてはいるんだから」
「本当か?」
「本当だってば!!だからとりあえず、お代わりちょうだい?」
陽介の眉間の皺が、より一層深さを増していく。陽介は自分のコップと空になったともちゃんのコップを交互に睨みつけ、それを無言のまま入れ替える。
「とりあえず、これでも飲んでろ」
「えぇ~~?」
「今は、割と大事な話をしてるんだから」
「むぅ~~」
不満そうな表情を浮かべながらも、ともちゃんはそのコップに口を付ける。そしてそのまま残っていた梨を綺麗に平らげて、満足そうな吐息を零す。
「本当に、どうしたもんかなぁ~」
「そうなんだよねぇ~。どうすればいいんだろうねぇ・・・」
できることならば、あまり関わり合いたくはないのだけれど・・・。
「そもそも、武井については本当に何も知らないしな」
「そうなんだよねぇ・・・」
本当に、どうすればいいんだろうねぇ~~?