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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十一章:冬の始まり
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第207話:待ちぼうけ

 久しぶりに訪れた陽介の部屋は、いつも通り男臭かった。その部屋には小洒落た小物なんて一つもなくて武骨であり、床上に転がっているのは用途はともかくとして名前の分からない筋トレグッズばかり。


「この部屋は、全然変わらないね」


 そんな部屋の中で、ともちゃんはクッションに腰を下ろしながら誰にともなく呟く。


「それに比べて、なっちゃんの部屋は・・・」


 ともちゃんの呟きは、勿論すぐ隣にいる私にも聞こえている。幼馴染から放たれる意味深な視線に、私は唇を尖らせる。


「何か、問題でも?」

「いや、別に・・・」


 元々、陽介の部屋やともちゃんの部屋同様に物が少なく味気なかった私の部屋は現在、母さんによって乙女チックなそれに魔改造されている。私が医学的に女判定されて以来その部屋は、仕事で疲弊したその心を癒すためのおもちゃ箱として我が実母によって好き勝手されているのである。


 私が従妹のゆきちゃんの家から帰省する度に、増えていた可愛らしい小物。ブルー系の涼やかな色合いだったカーテンは、いつの間にかピンク色へと変貌していた。

 今までは殆ど使用することのなかったピンクや白系統の小物や家具に囲まれて、あの当時の私はソワソワしていた。今でこそ慣れたものの、まるで本物の女の子の部屋のように魔改造されたそこで、私は夜な夜な複雑な心情を抱いていたのだ。


「嫌だったのなら、嫌って言えばよかったのに。なっちゃんは、すぐに我慢して抱え込むから」

「いや、まあ・・・」


 それはそうなのだけれど・・・。でも、楽しそうに飾られた小物を説明したり、やたら可愛らしい服を私に着せようとしたり・・・。


「あんなに楽しそうにしている母さんを見たのは、久しぶりだったからさ」


 仕事のために仕方がないとはいえ、毎日朝早くから夜遅くまで家を空け、ようやっと顔を合わせた時に見るのは疲れ切って疲弊した両親の顔。今年は二人とも受験生である三年生の担任から外れたため、少しはマシに見えるのだけれど・・・。


「だからまあ、これくらいならいいかなって」

「・・・・・。そっか・・・」


 そこで一旦、私たちの会話は途切れた。私たちは床上に転がる筋トレグッズを適当に手に取っては、飲み物を取りに行った陽介の帰りを待つ。


「今月末の旅行、やっぱ難しそう?」

「・・・・・」

「なっちゃんのお母さんたち、仕事が忙しいかな?」

「・・・・・」


 それは、どうだろう。一応、何とかなりそうだって話ではあったのだけれど・・・。


「三家族での旅行なんて、もう本当に久しぶりだからさ。できれば皆で行けたらいいよね」

「・・・・・。そうだね」

「最後に行ったのは、いつだったっけ?小学三年生くらいの時だっけ?」

「確か、そのくらいだった気がする」


 昔は、それこそ私が小学生に上がる前は、毎年のように三家族合同で旅行に行っていたらしい。その全てを私は覚えているわけではないのだけれど、家にあるアルバムがそれは確かにあったことなのだと明確に主張している。

 だけれど、私たちが成長するにつれ、それは難しくなった。私の両親は勿論、ともちゃんたちのご両親だって本当は忙しかっただろうしね。それに、中学時代は部活やら私の事情やらで忙しくて、そのまま高校受験へと突入して・・・。


 恐らく、私たち三家族が纏まって時間が取れるのは、来年がタイムリミットになるだろう。再来年には大学受験のために忙しくなるだろうし、私たちが進む大学によっては皆バラバラになるかもしれないから。

 だから、陽介やともちゃんとこうして過ごせるのもあと少しだけなのかもしれない。私と雪ちゃんが別々の高校へと進まざるを得なかったように、数年後には・・・。


「陽介、遅いね?」

「うん、そうだね」

「飲み物取りに行ってるだけのはずなのに・・・」


 私たちがそう言いながら視線を向けた先の見慣れた扉は、依然として閉まったままであった。すぐに戻ってくるはずだった陽介の姿はそこにはなく、私たちは再びその視線を互いの顔へと戻す。


「「・・・・・」」


 幼い時から、ずっと見続けてきた顔。その顔は年相応に変化して、ちょっとずつ大人のそれに近付いていって・・・。

 そんな幼馴染の顔を何ともなしに見遣りどことなくセンチな気持ちを抱えながら、私はもう一人の幼馴染が戻ってくるのを静かに待つのだった。

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