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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十一章:冬の始まり
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第204話:帰宅

 先輩との超気マズい時間を終えた私は今、一人部屋の中で悶々としていた。部屋着に着替えベッドの上をコロコロと転がりながら、私は重い溜息を零していたのである。


「はぁ・・・」


 先週の日曜日、先輩から話しかけられた時には本当に焦ったのだけれど・・・。幸いにも先輩は私の正体そのものには全く無関心らしく、その点については本日の話し合いで安心できたようなそうでもないような・・・。


「武井君について、ねぇ~?」


 先輩は彼女の弟である武井 紡君についての情報を集めるために、私に接触してきたらしい。とはいえ私はそもそも武井君について彼女以上に何かを知っているわけでもなく、だから特に話せることもないわけで・・・。


 彼女から直接聞いたところによると、情報を集めるために彼女は色々と暗躍していたようなのである。先ずはクラスメイトのサッカー部員と仲良くなり、その伝手で一年生の部員たちとも仲良くなって定期的にサッカー部の練習に顔を出し、その都度何気ない会話を繰り返しながら徐々に距離を詰めていって・・・。

 その結果、彼女は武井君の姉であるという事実を知られることなく内田君たちと顔見知りになった。中学時代にはあまり接触がなかったことも幸いして、彼女は事の詳細を知っていそうな峰島中学出身のサッカー部員への自然な形での接触に成功したのである。


 彼女がまだ中学生の時には、思春期特有のアレコレで動けなかったから。そのせいで事態が悪化してしまい、それを彼女はとても悔やんでいたのだ。私としてはあくまでも武井君本人の問題で先輩は悪くないと思うのだけれど、それでも先輩は思い悩み、だからこそ大胆に動いたわけで・・・。

 でもまあ、その結果は芳しくなかったらしい。先輩は武井君の姉という事実を隠して動いていたので踏み込んだ話ができず、そのせいで内田君たちからは彼女が求める情報を思うように引き出せなかったのだ。


 それでも、先輩は諦めなかった。彼女は武井君のことを大切に思っていて、どうしても力になりたかったのだ。そして、そのような状況の中で彼女がようやく手に入れた情報。それは武井君が陽介という男子生徒と仲が悪かったらしいという情報と、その陽介と特に仲が良かった私という存在について。


 長い時間をかけ苦労して情報を集め、ようやく進展した。だけれどもその情報も曖昧な点が多くて、先輩自身が求めている答えに辿り着くためにはまだまだ埋めるべき空白が多かった。

 本当は今すぐにでもその男子生徒と話して、核心に迫りたい。だけどそれは怖くもあり、そもそも弟と仲が悪かったらしいその男子生徒が素直に話してくれるのかどうか・・・。


 そうして悩んだ結果、先輩は私という存在に注目したらしい。内田君たちの話を聞く限り私は非常に大人しい性格である上に小心者そうだから、話の主導権を握りやすいだろうと考えたのだ。


 だけど、肝心の私が見つからない。一色ひいろ 夏樹という存在が今どこにいるのか、それを知っている人物を先輩は見つけることができない。

 一番仲が良かったという陽介に訊くことは、できるわけがない。そもそもそれをするくらいなら、サッサと本題を話してしまった方が早いだろう。


 とはいえ、内田君たちにそれとなく訊いてみても彼等は首を横に振るだけ・・・。他に私の行方を知っていそうな人は、先輩の知り合いの中には存在しなくて・・・。


 そこから先は本当に偶然というか運が悪かったというべきか、丁度その頃の私は内田君同様サッカー部に所属している深山みやま君からの告白を断っており、その話がサッカー部の中で広がってしまっていた。話が広がるだけならばまだしも、好奇心に負けた一部部員とそのクラスメイトたちが私の顔を見に来たりなんかもした。

 そうして当然の流れながら、サッカー部の練習に出入りしていた先輩も一色 夏姫という存在を認識することとなった。好奇心の赴くままに私の姿を遠くから確認した彼女は、情報収集のために勝手に弄っていた弟のスマホにあった中学時代のサッカー部員たちの写真の中に私似の男子生徒がいることに気が付き、そして・・・。


 その日から、先輩は一色 夏姫をロックオン、遠くから色々と観察していたらしい。彼女とは学年が違うから勿論限度はあるのだけれど、それでも利用している駅とか、誰と登下校しているのかとか・・・。

 いやまあ、元々彼女も峰島中学出身だし、利用している駅も同じはずだから互いに意識しないままでの接触は過去にもあったのだろうけれど。でも、結果的に私が峰島中学の学区内に住んでいるという事実がバレ、それが夏樹イコール夏姫説により信憑性を持たせる結果となってしまった。


「性別こそ違うけれど、名前は一文字違いだし顔も似ている、かぁ・・・」


 結局最後まで白を切り通した私ではあるのだけれど、まあ厳しいだろう。先輩は私を夏樹だと確信した上で色々と話したのだろうし、その認識が今更覆せるとも思えない。


「はぁ・・・」


 文化祭実行委員になった件については流石に偶然だって話だったのだけれど、うう~ん・・・。


「どちらにせよ、無視も放置もできないしなぁ・・・」


 現在高校二年生である先輩は、培った人脈を駆使して武井君についての情報を集めて回っている。彼女にとって武井君は大切な家族だから、荒れてしまっている彼のことが本当に心配なのだろう。

 とはいえ、そのせいで私にまで飛び火するのは勘弁してほしい。彼女の動き次第では私の事情が不必要に広まってしまう可能性もあるので、今の私は気が気ではないのである。


「陽介には、話しとくべきだよなぁ~。それと、ともちゃんたちにも・・・」


 もう何度目になるのか分からない溜息を、私は零す。そしてそのままベッドの上を無意味にコロコロと転がりながら、私はスマホを操作するのだった。

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