第201話:理詰め
ここから第十一章(201話~220話)となります。最終章まであと一歩、ラストスパートです。
十月末に行われた文化祭も終わり、今の季節は十一月。その最初の週の土曜日の午前の時間、私は一人の先輩女子と向き合っていた。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。私はただ、弟のことについて色々と訊きたいだけだからさ」
私の前で朗らかな笑みを浮かべながらそう言葉を発する彼女の名前は、武井 瑞希さん。彼女は私が峰島中学時代から特に苦手としていた男子である武井 紡君の実姉であるらしく、そんな彼女は何故か私の正体について確信を持っているようであり、先週の日曜日私にコンタクトを図ってきたのだ。
「この前は人もたくさんいたし、だから・・・。今日はあなたといっぱいお話がしたいな」
「・・・・・」
「ね?夏姫ちゃん?」
「・・・・・」
文化祭実行委員の打ち上げの際にコッソリと声をかけられ、その後もスマホのメッセージ機能を使って何度か遣り取りし・・・。そうした経緯の後に本日ファミレスで向かい合う彼女を前に、私は苦い表情を浮かべていることだろう。
「あの、武井先輩?」
「ん、何かな?」
「何度も何度もなぁ~ん度も言っているのですが、私は先輩が言ってる夏樹って男子ではないですし・・・。だから、先輩の弟さんである紡君のことについても知らないっていうか・・・」
私の発言に対し、先輩はニコニコとした表情を崩さない。そしてそれが私のチキンハートを必要以上に委縮させ、私の脳内を混乱させる。
「まあ、そうだよね・・・。あなたは、そう言うよね・・・」
「・・・・・」
「う~~ん・・・」
「・・・・・」
怒るでもなく、脅すでもなく、困ったような表情を浮かべながらも決して険しい顔をしない武井先輩。
「この写真なんだけどさ・・・」
「・・・・・」
「この子の顔、あなたとソックリだよね?」
「・・・・・」
先輩がスッと差し出してきたスマホ・・・。その画面に浮かんでいたのは、中学時代の私の写真。それは私がまだ男子として生活していた時のものであり、とある部活動大会後に一年生部員で集まって撮ってもらった写真であった。
「そんなに、似てます?」
「うん。とっても」
「・・・・・」
「うふふふふ」
ぐ、ぐぬぬ・・・。
「で、でも・・・。それだけで私がこの子ってことにはならないのでは?顔が似てる人なんて、探せば他にもいるでしょうし・・・」
世の中には、顔が似てる人が三百人くらいいるらしいですよ?
「まあ、そうかもね」
「・・・・・」
「でも、他にも証拠っていうか、根拠はあるんだよ?」
「・・・・・」
嫌な汗が、背中を流れている。心臓がバクバクいっている・・・。
「サッカー部の内田君って子、知ってる?その子、夏姫ちゃんと同じ一年生なんだけどさ」
「えぇ~と、どうでしょう・・・。名前くらいは、聞いたことがあるかも?」
白を、切るんだ・・・。今の私にできることは、それだけなんだ・・・。
「その子から色々と話を聞いたんだけどさ、夏姫ちゃんって、内田君と同じ駅から学校に通ってるらしいじゃない?てことはさ、夏姫ちゃんの家は、その近くにあるってことでしょ?」
すぅーーーーっ・・・。
「いや、あの、私は・・・」
「ん?何かな?」
「えぇ~っと、う~~んと・・・」
陽介・・・、ともちゃん・・・。もう誰でもいいから私を助けてっ?!