第20話:一色(ひいろ) 夏姫(なつき)
後へ後へと先延ばしにしていた夏休みの宿題を終わらせるべく、私は幼馴染たちへと電話を掛けた。だけれど・・・。
「夏樹、どうした?大丈夫か?」
「・・・・・」
「お前、もしかして泣いてるのか?」
「・・・・・」
ともちゃんに対しては、謝罪にもなっていないあやふやな言動をした挙句怒らせてしまい、そのまま電話を切られてしまった。陽介に対しては、溢れ出る涙と嗚咽のせいで言い訳の言葉すら発することができない。
「何かあったのか?なあ、おいっ!!」
「・・・・・」
久しぶりにいきなり電話を掛けてきたと思ったら、この有様である。陽介はさぞかし困惑していることだろう。
「うぅ、ぐすっ」
「・・・・・」
「あの、あのね?」
「・・・・・」
何とか、何とか落ち着かせないと・・・。
「ちょっと長いこと、連絡できなくてさ」
「・・・・・」
「ぐすっ。それで、謝らなきゃと思って」
「・・・・・」
次々と溢れ出てくる涙と嗚咽のせいで、上手く言葉を発することができない。ただでさえ心も頭もいっぱいいっぱいだというのに、こんな状態ではまともな会話なんてできやしない。
「親父たちから、何となくだけど話は聞いてる」
「・・・・・」
「詳細ははぐらかされたけど、夏樹、大変だったんだってな?」
「・・・・・」
私の頭の中に、心配そうな顔をする心優しい幼馴染の姿が浮かんでくる。
「何ていうかさ、俺も急かすつもりはないし・・・」
「・・・・・」
「こうして声も聞けたしさ、だから、もうちょっと落ち着いてからで大丈夫っていうか」
「・・・・・」
陽介の優しさが、彼の落ち着いた声が、私の心を解きほぐしていく。
「だからさ・・・」
「・・・・・」
「夏樹が落ち着いたタイミングで、また会おうぜ?そしたらまた三人でゲームしてさ」
「うん、うん・・・」
いつ叶うとも分からない再会の約束をして、私たちは電話を終わらせた。
「・・・・・」
結局私は、最後の最後まで謝罪も状況説明も何一つ話すことができなかった。そしてそんな私を、陽介は叱責することもなくただただ優しく慰めてくれた。
「あぁ、私、最低だ・・・」
ともちゃんに怒られたことも隠したまま、私が女になったことも隠したまま、純粋な陽介の優しさにただただ甘えて・・・。
「・・・・・」
手に持つスマホをベッドへと投げ捨てて、私は顔を洗うべく洗面台へと向かう。
「ふふっ、酷い顔・・・」
鏡の中に映る涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった私の顔は、私の卑しい心の内も手伝って実に醜く酷いものだった。