第2話:軟弱系男子
「せっかくの休日が全部部活で潰れたな」
「そうだねぇ~」
「こんなことなら、サボってゲームでもしてりゃあ良かったな。知美も誘って三人で」
「それ、武井君の前では絶対に言わないでね?」
池田先生の呼び出しから解放され、陽介は戻ってきた。そんな彼と共に地面へと置いておいたバッグを拾い、僕たち二人は休日の校舎を後にする。
「で?話は何だったの?」
「・・・・・」
「ねえ、何だったの?」
「う~ん、まあ、そのぉ・・・」
汗だくの体操服のまま、僕たちは帰り道を歩く。本来であれば着替えて下校すべきなんだろうけれど、この季節では着替えたところでどうせすぐ汗みずくになる。
「武井の代わりに、部長をやらないかって・・・」
「お、おぅ・・・」
「いやまあ、断ったんだけどな?」
「・・・・・」
いつも浮かべている爽やかイケメンスマイルを引っ込めて、陽介は語る。
「俺さ、体を動かすことが好きで、サッカーも勿論好きなんだけどさ」
「・・・・・」
「でも、他の何を犠牲にしてでもそれがしたいかって言われると、そうじゃないじゃん?俺、夏樹や知美たちと遊んでる方が楽しいしさ」
「う、うん」
顧問の池田先生は、今時珍しいくらいの熱血先生だ。部活に限らず何をやるにも超一生懸命で暑苦しくて、そんな先生に引き摺られているのかサッカー部の皆も凄く真面目にサッカーに取り組んでいる。極々一部を除いては・・・。
「なあ、夏樹」
「ん、何?」
「俺たち、何でサッカー部に入ったんだっけ?」
「内申のために適当に何か入っとけって親が・・・。だから、二人で適当に選んだんだけど」
正直な話、僕もそれほどサッカーにお熱なわけではない。僕はスポーツ全般が得意な幼馴染とは違って運動が得意ではなく、体の小ささも相まってフィジカルがモノを言うサッカーとはあまり相性がよくないのだ。
「はぁ~、どうすっかなぁ~。何か面倒になってきたなぁ~」
「・・・・・」
「武井の件がなかったら、もう少し気楽に考えられたんだけど・・・。マジでどうしよ」
「・・・・・」
暑さと汗による不快さもあって、僕たちは池田先生の言いつけ通りどこに寄ることもなく真っ直ぐ家へと向かう。
「それじゃあまたな」
「うん、また明日」
「今度の休日は部活サボって、三人でゲームしようぜ」
「うん、考えとく」
幼馴染の陽介と別れ、僕は家の扉を潜る。そのまま荷物を床へと投げ出して、着替えとタオルを持って浴室へと駆け込む。
「あ゛ぁ゛~、疲れたぁ~」
給湯器を点けるまでもなくシャワーの水は温くて、その温度が火照った体に心地よい。
「ふへぇ~」
温いシャワーの水で汗を洗い流し、軽く体を洗って脱衣所へと戻る。
「・・・・・」
ふと視線を向けた鏡の中には、低身長でひょろひょろで女顔な自分が映っていた。それは高身長で筋肉質でがっしりとしていて、そんな男らしい姿の幼馴染とは正反対であった。
「む、むむぅ・・・」
理想の男性像とはかけ離れた自分自身の裸体に、僕は悲しみの視線を向ける。そんな僕の視線を受けた鏡の中の自分自身の顔は、非常に遺憾なことにむくれた女の子の顔そのものであった。