第199話:ラブ注入~!!
本日は、文化祭二日目。今日は実行委員としての仕事も殆どないから、昨日回れなかった催しをともちゃんと一緒にのんびりと見て回るはずだった。そう、そのはずだったのだ!!
「ご主人様にぃ~~!ラブ注入ぅ~~!!」
私は何故か、タンスの奥底に封印したはずのメイド服を着ていた。私は何故か、引き攣った笑みを浮かべながらアホなことを宣っていた。
「あ、ありがとうございました・・・。以上となります・・・」
どうして・・・、どうしてこんなことに・・・。
「ありがとう!すごく良かったよ!!」
あぁ、左様でございますか・・・。
「またあとで来るから、その時もよろしく!!」
いえ、もう二度と来ないでください・・・。
「お帰りは、あちらからになります・・・」
本当に、どうしてこんなことに・・・。
*****
昨日、仕事を終えた私はともちゃんと一緒に再度各催しを見て回った。同様に、仕事を終えた眞鍋さんは部活組と一緒に各催しを見て回ったみたいだ。
で、日も傾き本日はお開きとなったそのタイミングで、私は何故か眞鍋さんに土下座されつつお願いされたのだ。明日メイド服を着て、三年Cクラスの教室に行ってほしい、と・・・。
何を言っているのだろうと、私は思った。隣にいたともちゃんや近くにいたクラスメイトたちも、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
色々と訊きたいことはあったのだけれど、一先ず私たちは教室を出ることにした。そこは人が多かったから、詳しい話は帰り道で聞くことにしたのだ。
「いや、ホントゴメン!!つい口が滑っちゃってさ・・・」
帰りの電車を待つ駅のホームで、彼女は言ったのだ。私がかつてメイド服を着たことを、先輩にゲロっちゃった、と・・・。
更に不幸なことに、その日は文化祭の日。普段であれば持ち込みが制限されているスマホが、その日は持ち込み可能だったのだ。
「あの写真、先輩に見せちゃった・・・。てへ?」
私は久しぶりに、ガチでキレた。そう、ガチでキレたのだ。あれは封印されるべき黒歴史であり、決して人目に晒してよいものなんかではないのだから。
「ちょ?!痛い?!痛いって?!」
真鍋さんのプニプニな腹に頭突きをし、そのままグリグリし、それでも私の怒りは収まらない。
「私のことはどうシバいてもいいから・・・。メイド服だけは・・・、メイド服だけは着てください!!」
んなの、嫌に決まってんだろが?!
「でも私、約束しちゃったんです・・・。メイドななっちゃんを、明日一日貸し出しますって・・・」
部活組と一緒に各催しを見て回った眞鍋さん、そんな彼女は当然の如く例の催しにもその足を延ばした。そしてその場で手作りされたメイド服を見て、眞鍋さんは口を滑らせたのだ。このメイド服、出来がイマイチだな、と・・・。
「そりゃキレるでしょ!当たり前でしょ!!」
「スンマセン!ホントスンマセン?!」
そうしてあれこれあった後に、メイドな私の貸し出しで決着がついた、と・・・。
*****
頭が、痛い・・・。昨日の眞鍋さんとの遣り取りを思い出した私は、深い溜息を零す。
「はぁ~~~~」
いやまあやらかしたのは眞鍋さんだし、私が律儀に封印されし黒歴史を持ち出すこともなかったんだけどさ・・・。
でもねえ、メッセージが届いたんだよ。昨夜、先輩から・・・。楽しみにしてるって、皆楽しみにしてるって・・・。
「夏姫ちゃん、次のお客様だよ!!」
「あ、はい・・・」
あぁ、またお客さんか・・・。
「え?」
「あ・・・」
な、何で深山君が?!それに内田君と、陽介も?!
「お席は、こちらになります」
「「「・・・・・」」」
気マズい・・・。超気マズい・・・。
「当店では、飲食物を取り扱っておりません。その代わり、こちらのメニューがございまして・・・。この中から、私に言ってほしい言葉をお選びください。それが、当店のサービスとなります」
深山君が、メニューを食い入るように見ている。そしてそんな深山君を、内田君と陽介がとても可哀想なモノを見るような目で見ている。
「決めました。これでお願いします」
・・・・・。
「これで、本当にいいんですね?」
「はい。これでお願いします」
深山君、君って人は、なんて業が深いんだ・・・。
「ご主人様。私はあなたのことが、大大だぁ~~い好きでございます!!」
私は胸の前で手を組み、引き攣る口元を無理矢理動かしながら満面の笑顔を作りそう宣う。
「ぐはっ?!」
私の渾身の羞恥芸を見た深山君はそう短く言葉を発し、そして、息絶えた・・・。
「お二人は、何かご希望ございますか?」
「いや、俺は・・・。内田は?」
「いや、俺も・・・」
そうですか・・・、それは何よりだよ・・・。
「では、お帰りはあちらとなります。もう二度と来ないでくださいね?」
「「・・・・・」」
それから十分もしないうちに、深山君は単身で舞い戻ってきた。鼻の穴にテッシュを詰め込んだ彼はその後幾度となくメイド姿の私の前へと現れては、とても幸せそうな表情を浮かべながら尽き果てるのだった。