第198話:お仕事の時間
枕崎さん率いるBL教団から逃げ出した私たちは、休憩用に整えられた空き教室へとやって来た。文化祭実行委員である私はそろそろお仕事の時間であり、ともちゃんとはここで一旦お別れなのだ。
「それじゃあ行ってくるよ」
「お~け~。またあとでね?」
軽い休憩後に教室を出て廊下を進み、やって来たのは体育館。
「なっちゃん、おつぅ~~」
「うん、お疲れ様」
そこで眞鍋さんと合流し、私は先輩たちがいる舞台袖の方へと向かう。
「今までずっと部活の手伝いしてたの?」
「そうそう!でも、これが終わったら自由時間だからさ!!」
真鍋さんが所属するバスケ部は、野球部と合同で何かやっているらしい。グラウンドを使って行っている大規模な催しの名は「届け!この想い!!」らしく、つまりどういうことなのだろう?
「気になるなら、あとで行ってみれば?」
「うん、そうする」
「どうせなら、本田君と一緒に行くといいかもね。にしし・・・」
いや、陽介とはちょっと・・・。何か恥ずかしいし・・・。
「おっ、二人とも来たね」
「はい、お待たせしました」
「それじゃあ、サクッと準備しちゃおうか?」
「「はい!!」」
この場で私たちが行う仕事は、これから本格的に始まる舞台での催しの下準備とその手伝い。
「このあとは吹奏楽部の演奏だから、とりま椅子を運んで・・・。そのあとは三年生の演劇だから小道具も準備して・・・」
作業は、二年生の実行委員を中心に進められていく。三年生たちは最小限の指示出しだけして見守り、私たち一年生は二年生のサポートに徹する。
「鈴木君・・・」
そうして進められる舞台準備の場に、眞鍋さんの思い人はいない。鈴木君のシフトは明日なので、今日は彼と仕事を共にすることはない。
「結局、鈴木君とは全然全く話せてない・・・。仕事も一緒にできてない・・・」
「ま、眞鍋さん?」
「あは、あはははは・・・」
「・・・・・」
鈴木君目当てで、彼との距離を近づけるために実行委員となった眞鍋さん。だがしかし、誠に残念なことに、その機会は全くと言っていいほどに訪れていない。
「この仕事が終わったら、文芸部の催しを見に行ったら?文芸部室じゃなくて、多目的教室Dでやってる方ね?」
「・・・・・」
「もう無理矢理にでも話しに行かないと、何もないまま文化祭終わっちゃうよ?」
死んだ魚のような目をしながら、仕事を進める眞鍋さん。そんな彼女の背中を、私は優しく叩く。
「私はね、もっと自然な形で距離を詰める予定だったんだよ。前回みたいな失敗をしないためにさ」
「眞鍋さん・・・」
「だけど、タイミングが悪過ぎるっていうか・・・。もう、何でなのよ・・・」
舞台の準備は、十分も掛からずに終わった。
「お~けぇ~お~けぇ~。そんじゃ私たちは、脇に引っ込むとしましょうか?」
その後すぐに始まった舞台上の催しはどれも迫力が凄くて、皆とても輝いていて・・・。
「はぁ・・・」
舞台上で光り輝く生徒たちとは対照的に、暗くジトッとした空気を纏う眞鍋さん。そんな彼女の背中をポンポンと擦りながら、私は生き生きとした表情を浮かべる舞台上の主役たちへと視線を向けるのだった。