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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十章:桃色の青春のために
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第194話:頑張ったんだよ?!

 月日はあっと言う間に流れ、今は十月末の木曜日の午後。本日の通常授業は午前中で終わり、午後の時間は明日及び明後日に行われる文化祭のための準備時間に充てられていた。


「いよいよ明日だねぇ~」

「そうだね。楽しみだねぇ~」


 いつもであれば、退屈で眠たい午後の授業の時間。でも今は、楽しい楽しいお祭りのための準備の時間。勉強嫌いのともちゃんも今は笑顔で作業を進めており、他のクラスメイトたちの表情もいつもに比べて数段明るい。


「なっちゃん、机の配置はこんなもんでいい?」

「うん、おけおけ」

「じゃあ、あとは絵を固定してっと・・・」


 ちなみになのだけれど、私たちのクラスが行う催しは絵の展示。二日間に亘って行われる大規模な文化祭で絵の展示だけというのは物足りなくも思うのだけれど、でもこれには相応の理由があり仕方なかったのだ。

 その理由というのは、私たちが一年生であるが故の経験不足。そもそも何をしてよいのか、何ができるのか、そしてそれを実施するにあたりどうやって諸々の準備をしてよいのか等々、考えるべきことがあまりにも多過ぎてハードルが高かったのである。


 私たちが中学生だった頃にも文化祭自体は存在したのだけれど、それは先生たちが主導して行われるものであり制限も多かったからねぇ~。具体的な内容としては舞台での歌唱とかちょっとした演劇とか、あとは授業で行った研究の発表とか展示とか・・・。

 いずれにしてもそれらは先生たちが主導して行われ、私たちも多少は意見を出したりとかしたのだけれど、基本脳死のまま進められた。開催期間は一日だけだったし内容も薄かったから、深く考えたりとかしなかったんだよねぇ~。


 一方で今回の文化祭は二日間に亘って行われ、中学生の時のそれと比べて規模が大きい。また私たち生徒側の自主性が重んじられており、制約も緩く自由度も高い。

 これは過去の先輩たちが積み上げてきたものが大きいらしく、部活動などの課外活動にあまり重きを置きたがらない先生たちもある程度は大目に見てくれている。だからこそできることも多く、条件さえ満たせれば飲食店すらも可能らしいのである。


 でもねぇ・・・。先にも述べた通り、私はこのような催しを実施するための経験値が圧倒的に足りない。そもそも人前に立ってクラスの皆を纏めるとか、小心者である私には先ずそれのハードルが高過ぎるのだ。

 もう一人の実行委員である眞鍋さんは人前でのアレコレは平気らしいのだけれど、そんな彼女は鈴木君とお近づきになるために立候補したのであって、実務的なことについては全然全く考えていなかった。それに加えて彼女はかなりの脳筋気質であるため、手綱を握るのも大変だったり・・・。


 とある日のホームルームの時間、配られた過去の文化祭についてのプリントを見て、クラスメイトの男子は言った。「メイド喫茶をしよう!!」と・・・。それに対し眞鍋さんはノータイムでこう答えたのだ。「採用!!」と・・・。

 勿論、多くの女子たちは渋い顔をした。私も負けじと渋い顔をした。謎にクオリティーが高いメイド服を着せられたことのある私にとってあの衣装はトラウマであり、黒歴史そのものなのだから。


 だがしかし、その後も上がるのはしょうもない案ばかり・・・。具体的には「バニー喫茶」とか「チャイナ喫茶」とか「ナース喫茶」とか・・・。

 ていうか、全部喫茶店じゃん?!しかも色物の?!そもそも飲食店はプリントにも書かれている通り一番条件が厳しいし、ガチで飲食物を準備するのなら先生たちへの相談や各方面への許可申請とかマジで本当に大変なんだからね?!


 そうしてアホな遣り取りが続き、疲れ果てた私は提案したのだ。もう、絵の展示でいいんじゃない?、と。一年生である私たちが初っ端から難易度の高い催しをする必要などなく、今年は経験を積むために各所を見て回ることに注力し、喫茶店とかは二年生になってからすればいいんじゃない?、と・・・。

 実際に喫茶店をするとなると誰かしらが交代で店に残ることになるだろうし、そうすると他を見て回る時間が減る。期間は二日間あるとはいえ部活をやってる人たちはそっちの対応もあるだろうし、舞台で行われる演劇とかは開催時間が限られているだろうしね。


 そうして何とか皆の意見を取り纏め、私たちのクラスが出した結論が絵の展示だった。これなら準備に掛かる時間も最小限で済むだろうし、文化祭の期間は皆自由に歩き回れることだろう。

 私たちがしなければならないのは展示用の絵を描くことと、それを良い感じに見やすく展示することだけ。そして現在は皆が描いてきた絵を集め、それの展示のための準備中。


「え、えぇっと・・・。もう終わり?」

「「「「「・・・・・」」」」」


 私たちのクラスの文化祭準備は、三十分ほどで終了した。


「何ていうか、やっぱ地味だね?」

「「「「「・・・・・」」」」」


 展示されたそれを見て、クラスメイトの誰かがそう声を発する。そしてそれを否定する者は、実行委員含めて誰一人いない・・・。


「ほ、ほら!部活がある人はそっちの準備もあるから!!」

「そうそう!!それに私となっちゃんは、他にもやることあるし?」


 机の並びをちょっとだけ工夫し、その表面に両面テープで固定された絵、絵、そして絵・・・。壁に飾るでもなく、何の工夫もなくただ机の上に貼り付けられた絵、絵、そして絵・・・。


 私も内心、もう少しだけどうにかならなかったのかなとは思う。でも、仕方なかったんだ・・・。だって、生徒会から振り分けられた予算が少なかったんだもん?!

 四十人分の絵を壁面に飾るにはどうしてもスペースが微妙だし、それをどうにかするためには相応の何かが必要だし・・・。そしてその何かを得るにはお金が必要だったんだよ・・・。


「じゃ、じゃあ・・・。私は行くね?」

「う、うん・・・。行ってらっしゃい・・・」

「じゃあ、俺たちも行くか?」

「お、おう・・・」


 部活動組が、教室から旅立っていく。彼等はこの後、それぞれの部活動での出し物準備のため汗水を流すことになるのだろう。


「じゃあ、私も行くから」


 文芸部所属である彩音ちゃんも、旅立っていく。聞いた話によると文芸部の出し物は中々に凝った物のようで、準備も大変なのだそうだ。


「で、私たちはどうする?もう、やることないよね?」


 部活動組がいなくなってしまった教室の中で、帰宅部であるともちゃんは途方に暮れていた。他の帰宅部組も、途方に暮れていた。


「私となっちゃんはほら、実行委員としての仕事があるし?」

「「「「「・・・・・」」」」」

「えへ、えへへへ?」

「「「「「・・・・・」」」」」


 顔を引き攣らせ、何かを言いたげに口を開く彼等から私たちは目を逸らし、足早に教室を後にするのだった。

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