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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第十章:桃色の青春のために
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第190話:守ったモノと、失ったモノ

 十月の末に行われる文化祭についての会議は、長引いていた。私は三十分程度で終わるんじゃないかと楽観視していたのだけれど、その倍である一時間が既に経過していた。


(先に帰るよう、ともちゃんに言っといてよかったぁ・・・)


 喧々諤々に盛り上がる会議を後方の席からぼんやりと眺めながら、私は小さく溜息を零す。


「長いね・・・」

「そうだね・・・」


 今回の会議の主題は、各クラス及び各部活動が文化祭で何を行うかについて話し合い、それを確定させること。企画内容によっては場所や時間の関係でどちらかが諦めなければならない場合もあるため、これについては早めに決めてしまう必要があったのである。

 とはいえ、各々が何をしたいかについては前もって紙ベースで提出済みである。それを見た生徒会の人や上級生の実行委員の人が事前にある程度は調整しているはずであり、だからそんなに長くはならないだろうなぁ~って思っていたんだけれど・・・。


 だがしかし、残念なことに、事はそう簡単には進まなかった。複数のクラスと部活動がグラウンドでの催しを考えていて、そのための場所と時間を巡って熾烈な舌戦を繰り広げているのである。

 どちらも自分たちの意見を通すべく、一歩も譲る気配がない。自分たちの教室だけで完結する内容の私たちからすれば「もう私たち関係なくない?」と思わなくもないのだけれど、残念ながら私たちもまた実行委員の一人であるためそういうわけにもいかないらしい・・・。


「まだかな?」

「まだじゃない?」

「・・・・・」

「・・・・・」


 私の隣では、眞鍋さんがソワソワしていた。いや、これはソワソワというよりも、モゾモゾが正しいのかな?


「くぅ~~」

「・・・・・」


 体を小刻みに揺らし、落ち着きなく視線をあちこちへと飛ばす眞鍋さん・・・。


「もしかして、トイレ?」

「・・・・・」


 どうやら、図星らしい。


「まだだいぶ掛かりそうだし、コッソリ行ってくれば?」

「いや、でも・・・」


 真鍋さんは口を噤み、その視線をすぐ近くに座る思い人の方へと向ける。


「「・・・・・」」


 コッソリと抜けるにしても、椅子を引く音や扉を開ける音で周囲の人には気付かれるだろう。恋する乙女である眞鍋さん的には、思い人である鈴木君にトイレへと向かう姿を見られたくないのかもしれない。


「あと、どれくらい我慢できそう?」

「割ともう限界・・・」


 ・・・・・。


「小、だよね?」

「いや・・・」


 ・・・・・・・・・・。


「え、まさか、大きい方?」

「・・・・・」


 それはちょっと、本当にマズいかもしれない・・・。


「大きい方じゃなくて、ガスが・・・」


 あぁ、なんだ、そっちか・・・。


「昨日、家で焼き芋食べて、その副作用が・・・」


 お嬢様も家で焼き芋食べるんだなぁ~とか、どこで買った焼き芋なんだろうとか、そんなどうでもいいことを考えながら、私は現実逃避する。


「もう、コッソリ行くしかないって・・・」

「でも・・・」

「ここで漏らすよりも、よっぽどマシだって」

「・・・・・」


 以前、私も男子の前で漏らしてしまったからこそ断言できる。今コッソリとトイレに行く方が、絶対にダメージは少ない、と・・・。

 私は確たる意思を込めた視線を眞鍋さんへと飛ばし、それを受けた眞鍋さんは小さく頷く。そしてそのまま彼女はコッソリとトイレへ向かうべく椅子を引こうとして・・・。


「ぷぷぅ~~~~」


 グラウンドの場所取りで盛り上がっていた室内に、その音は甲高く響いた。人の声でそこそこに騒々しかったはずの室内にも、その音は響き渡ってしまった。


「「「「「・・・・・」」」」」


 視線が、私たちの方へと集まる。室内にいた百人近くにも上る人たちの視線が、私たちの方へと向けられる。


「「・・・・・」」


 真鍋さんの瞳は、ウルウルと湿っていた。思い人の近くにいたくて、少しでもその距離を縮めようと頑張っていた恋する乙女は今、大ピンチだった。


「え、えぇ~と・・・」


 私たちの席は一番後ろだったから、先程のオナラの主がどちらなのか、多くの人には分からないだろう。私たちの隣の席に座っていた人たちについては微妙だけれど、その人たちだって正面に注目していただろうから、私たちが黙ってさえいればどちらが先程の犯人なのか確定できないはずである。だけど・・・。


「あの、その・・・。ごめんなさい、今の私です・・・」


 私の口からは、自然とそう言葉が出ていた。そしてその私の言葉によって、先程のオナラの犯人は私ということになった、はずである。


「「「「「・・・・・」」」」」


 沈黙が、ツラい・・・。顔が、熱い・・・。


「なっちゃん・・・」


 真鍋さんから向けられる謝意の籠もった視線と、無言のままの数多の視線に晒されながら、私は俯き放心するのだった。

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