第19話:夏休みの宿題
夏休みもいよいよ終わりを迎えようとしていたとある日、私は自室でスマホを弄っていた。自室と言ってもそれは実家にある私の部屋ではなく、従妹の雪ちゃん宅で一時的に間借りしている部屋なんだけれど。
「このまま何も返信しないのはマズいよなぁ~。でもなぁ・・・」
私が手に持つスマホの画面には、溜まりに溜まった未返信の既読メッセージが並んでいた。
「これ、どうしよう・・・」
登校日の日に、私の転校の件はクラス担任の先生によって伝えられたらしい。しかも、その理由は家庭の事情という非常に曖昧で急なものであった。
そういった事情により、私のスマホにはクラスメイトたちから多数の問い合わせが殺到していた。もう会えないのか?転校の理由は何なのか?等々・・・。
「眞鍋さん、甲山さん、木下さんも・・・」
メッセージの中には私の体調を気遣うものも多く、それがまた私の心を抉っていく。とりあえず、無難な感じに返信しとかないと・・・。
「急なことで挨拶もできなくてごめんなさい。それと、体調の方は大丈夫です、と・・・」
一件一件、慎重に内容を確認しながらのメッセージ返しは、中々に大変だった。何やかんやと理由を付けて後回しにしていたツケが、今の私を苦しめていた。
「てか、男子からのメッセージが少なくない?殆どがクラスの女子からのものなんだけど・・・」
私は男子が苦手だったから、親しくしていたクラスメイトの男子は確かに少ないのだけれど・・・。
「ま、別にいっか。これ以上深く考えるのはヤメとこう」
そうして数時間もの時間を使い、私はかつてのクラスメイトたちへの別れのメッセージ送信を完了させた。色々とぼかしているせいでその辺突っ込まれそうだけれど、今はこのくらいで勘弁してほしい。
「さて、と・・・」
やり残していた夏休みの宿題の大半を、私は何とか終わらせることができた。だけど、まだここには取り組むべき難題が残っている。
「陽介、ともちゃん・・・」
他のクラスメイトたちよりも数倍多い着信履歴とメッセージの量を見て、私は深くて重い溜息を吐く。
「先ずは、ともちゃんから・・・」
恐る恐る、私はスマホを操作する。
「・・・・・。もしもし、ともちゃん?」
「・・・・・」
「あの、今時間大丈夫?」
「・・・・・」
掛け慣れたはずの電話先からは、聞き慣れたあの元気な声は聞こえてこない。
「今まで、返信できなくてごめん。ちょっとバタバタしてて、タイミングが難しくてさ」
「・・・・・」
「それであの、えぇと・・・」
「・・・・・」
何を話すべきなのか、どこから説明すべきなのか・・・。
「なっちゃん、体調は大丈夫なの?」
「え?あぁ、うん・・・」
「そっか、そっか・・・」
「・・・・・」
沈黙が、この何とも言えない間が、超気マズい・・・。
「とりあえず、一言だけ言わせて」
「え?」
「心配させんなよ!バーーカ!!」
「・・・・・」
唐突な叫び声とともに、その電話は切られた。
「・・・・・」
それはある意味当然の反応であり、だからこそそれ以上私には何もできなくて・・・。
「陽介にも、謝らなきゃ・・・」
いつの間にか両目から零れ落ちていた大粒の涙を拭いながら、私は震える指先でスマホを操作するのだった。