第188話:圧倒的敗者
じゃんけんで勝つためのコツ、というものがあるらしい。そのコツというのは、シンプルに初手でパーを出すというもの・・・。
人間の手は構造的にグーとパーが最も負荷が少なく、それ故に無意識化だとグーとパーが選出されやすい。だから選出されにくいチョキは一旦置いておいて、グーに勝てるパーを出せば高確率で勝ち、最悪でもあいこに持っていけるということらしいのである。
「ふぅ~」
教卓の前で仁王立ちする先生を眺めながら、私は呼吸を整える。
(大丈夫、私は負けない・・・。そもそも私以外にも四十人近くいるんだし、負けるはずがない・・・)
先生が、ゆっくりと右手を掲げる。その手はグーの形をしており、そのままお決まりのフレーズを口にする。
「最初はグー、じゃんけん・・・」
私は、勝ちにいく!私は初手で、この戦いから離脱する!!
「それじゃあ、先生に勝った者は座れよぉ~」
「先生、あいこは?」
「あいこは負け扱いだ。勝った者だけ座れ」
「えぇ~~」
先生の初手は、パー・・・。私の初手も、パー・・・。
「じゃあ、次いくぞぉ~~」
くっ、次はどうする?次手はどうする?!
「うがぁ~~?!また負けたぁ~~?!」
「はいはい、じゃあ次いくぞぉ~~?」
何で?!何でまたパーなの?!グーを出してよ先生?!
「ほい」
それはチョキじゃん?!グーじゃないじゃん?!
「ほらそこ、ズルするなぁ~~」
「げっ・・・」
「次したら、強制的に実行委員な?」
「・・・・・」
パーじゃ、パーじゃダメだ・・・。ならどうする?私はどうしたらいい?!
「ほい」
ちょ?!何でグーを出すの?!今こそパーでしょ?!
「ほい」
うがぁ~~っ?!
「ほい」
何でぇ~~っ?!
「ほほいのほい」
あばばばば・・・。
「残りは、二人か」
「「・・・・・」」
「なら、最後はその二人でじゃんけんして、最後に負けた方が実行委員な?」
「「・・・・・」」
私は、もう一人のじゃんけん弱者と向かい合う。私は震えるその手をゆっくりと掲げ、新地君と向かい合う。
「それじゃあ、さっさとよろしく」
負けるわけには、いかない・・・。私は、実行委員とかやりたくない!!
「最初はグー、じゃんけん・・・」
ヤル気の一切感じられない気の抜けた新地君の掛け声とともに、私は頭をフル回転させる。勝つために出すべき手は、コレだ!!
「じゃあ、もう一人の実行委員は一色な」
「・・・・・」
「文化祭の出し物については・・・、面倒だし明日でいっか」
「・・・・・」
パー、滅茶苦茶弱いじゃん・・・。グスン・・・。