第183話:ノンデリ
今の時間は、昼休み。トイレを済ませた私たちは教室へと戻り、そして・・・。
「そっかそっかぁ~。新島さんが告白したの、別の本田君だったんだぁ~。良かったねぇ~?陽介君を取られなくて」
いや、その・・・。
「にしししし」
・・・・・。
「むふふふふ」
ともちゃんと眞鍋さん、そして甲山さんと彩音ちゃん。イツメンの四人に囲まれた私は今、物凄く居心地が悪い。
「てか、もっと早く話してくれればよかったのにぃ~。そうすればもっとイジれううん、もっと色々とアドバイスとかできたかもしれないのにさ」
ニマニマ顔の眞鍋さんが、実に楽し気な表情を浮かべてそう言った。てか今、イジるって言おうとした?
「そうそう。このところ夏姫ちゃんは本田君のことで元気なかったしさ。だから、ずっと気になってたんだよねぇ~」
本日寝坊で遅刻してきた甲山さんも、実に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「陽介お兄ちゃんのこと、好きなんでしょ?」
「いや・・・」
「大好きなお兄ちゃんのことが気になって気になって、仕方ないんでしょ?」
「・・・・・」
ニマニマ顔の眞鍋さんが、ズズイっと顔を寄せてくる。
「いや、そうじゃなくて・・・。あんなことがあったばかりだから、この話は後回しにしてたっていうか・・・」
私の言葉に、眞鍋さんたちの顔が強張る。そしてそんな私たちの様子を見た彩音ちゃんが、気遣わし気な表情を浮かべている。
「そっか、そっか・・・。何ていうか、ゴメンね?気を遣わせちゃってさ」
「いや、その・・・」
「私は大丈夫っていうか・・・。あんまり気にしてないからさ」
そう言って曖昧に笑う眞鍋さんを見て、私はハッとする。ヤバい・・・、これはやっちまったかもしれない・・・。
「えぇと、ゴメン・・・。別に変な意味で言ったんじゃなくてさ」
ただちょっと、陽介とのことを揶揄われて焦っちゃったっていうか・・・。
「いや、私の方こそゴメンね?ちょっと揶揄い過ぎたっていうか・・・」
意図せず重くなってしまった空気に、私は頭を抱える。夏休み中は主にメッセージだけで遣り取りしていたから、面と向かっての雑談は久しぶりだったのである。
ともちゃんからはノンデリだって言われてるし、陽介からも私は割と口を滑らせることが多いから気を付けるよう言われてるし・・・。あぁ・・・。
「はいはい。この話はお終い」
私が一人アタフタし、周りが何とも言えない微妙な空気に包まれていると、ともちゃんがそう言って手を叩いた。
「そんなことよりも、今度の週末の話。結局、どうするの?」
私たちがトイレへと向かうその前に、話していた内容。それは、今度の週末に皆で集まって遊びに行かないかというもの。
「夏休み中は色々と予定が流れちゃったしなぁ~」
「そうそう。だから、近場でいいからどこかに遊びに行こうよ」
「そうだなぁ~。彩音はどう?予定とか大丈夫そう?」
重かった空気は、次第にいつものそれに戻っていった。皆の話題は今度の週末の話へと変わり、眞鍋さんたちは各々どこに行きたいかで言い争っている。
「カラオケ!絶対にカラオケ!!」
「えぇ~?またぁ~~?」
「だって、最近彩音の演歌聞いてないしさ」
「いや、演歌とか歌わないから。あれはバラードだから・・・」
和やかになったその場の空気に、私はホッと胸をなでおろす。そしてそんな私に意味深な視線を向けるともちゃんに、私は小さく頭を下げる。
「私は、なっちゃんのお姉ちゃんだからね」
ワイワイと騒がしくなった皆の声の中に、小さく聞こえてきたともちゃんの声。一応ほんの数カ月だけ年上であるはずの私はその声に反論することもできず、背中を丸めてただただ小さく頷くことしかできなかった。