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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第九章:とある恋の結末
180/241

第180話:・・・、誰?

 何やかんやとあった夏休みも、もう残り僅かとなった。緑の葉生い茂る八月はあと数日で終わりを迎え、もうすぐ秋がやって来る。

 そしてそんな夏休み最終盤のとある日に、私は映画館にいた。特に興味もなかった超大作であるらしい恋愛映画を、隣に座る新島さんと共にぼんやりと眺めていた。


(私は何故、こんなところにいるのだろう・・・。私はどうして、NOと言えないのだろう・・・)


 もう何度目になるかも分からない問い掛けを、心の中で繰り返す私。


「・・・・・」


 新島さんから連絡があったのは、昨日のお昼頃。どうしても見たい映画があると連絡があり、既にチケットも二枚あるからと押し切られ・・・。


 いやまあ、どうせ暇だったんですけどね?陽介は男友達と遊びに行ったり部活に行ったりで忙しそうだし、従妹の雪ちゃんは一日だけ伯母さんの温情で一緒に遊びに行ったっきりまた塾で忙しそうだし・・・。

 それに、イツメンたちは例のプールでの事件以来ナーバスになってしまい、遊びに行くどころではなくなってしまった。ともちゃんに限っては表面上元気そうに見えるのだけれど、他のメンツは・・・。


(はぁ~~)


 私は心の中で大きな溜息を零しつつ、去る日に最悪な形で絡んできた男たちへと呪詛をぶちまける。


(あいつらさえ来なければ、あいつらさえ絡んでこなければ・・・)


 せめて、声をかけてくるのであれば紳士的な言動でもってそうしてほしい。そうすれば私たちの対応だって変わっていただろうし、眞鍋さんたちも不快な思いをすることなく、心に傷を負うこともなかっただろうに・・・。


 以前カラオケ店で絡まれたあの日、私は心に大きな傷を負ってしまった。あの日以来私の中で男性への苦手意識は爆上がりし、暫くの間は一部の男子を除き男性との接触が本当に苦痛で仕方がなかったのだ。

 しかしながら全ての男性があのような言動をするわけでもなく、あの時私を助けてくれたのもまた同じ男である新地君なわけで・・・。だから何というか、尚更複雑というか・・・。


 一応、私の心の傷については概ね癒えている。まだあの時の恐怖心が完全に無くなったわけではないのだけれど、事情を知った従妹の雪ちゃんによるメンタルケアとか、新地君もちょくちょく気に掛けていてくれたし・・・。

 だからこそ表面上は元気に見えるともちゃんは勿論、あの時不幸にも現場に居合わせてしまったメンバーへのメンタルケアは本当に大事だと思う。私の経験上、自身を気に掛けてくれる人が一人いるだけで心の負担が大きく軽減されるし、何よりも心の拠り所というか安心感が全然違うから。


 そんなわけで私は今、彼女たちにできる限りの言葉掛けを行い、一日でも早く彼女たちの心の傷が癒えるよう行動している最中なのである。これは人に相談しにくい内容の出来事だし、相談された相手もどうやって言葉掛けしてよいのか本当に難しいと思うから・・・。


(はぁ・・・)


 そんな感じで非常に難しい状態にある現実とは違い、スクリーンの中の二人は無事ハッピーエンドを迎えていた。紆余曲折あったはずの二人は満面の笑顔で熱い抱擁を交わしており、幸せそうで何よりである。


「しくしくしく、しくしくしく・・・」


 隣に座る新島さんの方から、すすり泣く声が聞こえてくる。夏休み前に失恋したばかりの彼女はこの映画を見て何を感じ、何を思ったのだろう・・・。


「新島さん、そろそろ・・・」


 エンドロールも終わり、この場にいた人たちの殆どが退出したそのタイミングで、私はそう声をかける。


「うん、うん・・・」


 正直な話、私はあんまり興味をそそられなかったっていうか、先日の出来事を回想するくらいには適当に聞き流していたのだけれど・・・。目元と鼻を赤くした彼女は、色々と感情を揺り動かされたようである。


「いい、映画だったね?」

「・・・・・。うん、そうだね・・・」


 ホントウニネ・・・。スバラシイエイガダッタネ?


「私、感動して泣いちゃった」

「・・・・・」

「えへへ、えへへへ」

「・・・・・」


 映画館を出てそのまま近くの飲食店へと向かい、そこで昼食を済ませる。そして予定通りそのまま近くのショッピングモールへと向かい、人が溢れる中で様々なお店を見て回る。


「この服可愛いなぁ~」

「うん。でも高いね・・・」


 色とりどりの服を見て回り・・・。


「この下着可愛いなぁ~」

「うん、そうだね・・・」


 色とりどりの下着も見て回り・・・。


「ねえ、これどう?似合う?」

「え、えぇと・・・」


 色とりどり、形様々なメガネを代わる代わる試し・・・。


「「あはははは」」


 何だかんだで楽しくて・・・。


「あっ」

「ん?」


 そうやって二人で歩き回っていると、突然新島さんが足を止めて・・・。


「本田君・・・」

「え?」


 嘘・・・。陽介?!でも、どこに???


「あっ」

「・・・・・」

「えぇと・・・」

「・・・・・」


 私が一人キョロキョロと陽介の姿を探していると、私たちの前へ二人組の男子がやって来た。


「あぁ、えぇと・・・。新島さんも遊びに来てたんだ?」

「う、うん・・・」

「そっか、そうなんだ」

「・・・・・」


 その男子は、新島さんの知り合いらしい・・・。


「今日は、たまたま二人で遊ぶ約束してて・・・」

「へ、へぇ~?」

「えぇと、それじゃあ、また学校で」

「・・・・・」


 引き攣った笑みを浮かべたまま、その男子たちは去っていった。そしてそれを見送る新島さんの表情もまた、盛大に引き攣っていた。


「本田君・・・」


 目元と口元を痙攣させ、しかしながらどこか切なげで・・・。そんな彼女の呟きを聞きながら、「あの人たち誰?」と、私は心の中でツッコミを入れるのだった。

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