第178話:夏姫ちゃん、頑張る
ドリンクを啜りながら、五人揃って休憩中だった私たち。そんな私たちに声をかけてきたのは、非常にチャラそうな見た目の男性たち。
「俺たちも丁度五人だしさ。ね?」
何が「ね?」なのだろう・・・。意味が解らない・・・。
「ここで出会えたのも何かの縁だし、今日は一緒に楽しもうよ?」
「「「「「・・・・・」」」」」
小さな子供を連れた女性が、そそくさと立ち去っていく。明らかに面倒臭そうなものを見たという顔で、子供の手を引きながら足早に去っていく。
「あの、私たちは・・・」
何とも言えない微妙な空気の中で真っ先に声を上げたのは、眞鍋さん。
「今日は友達とだけで遊ぶんで・・・」
いつもはお嬢様らしからぬ言動で、私たちを振り回している彼女。学校では全く物怖じしたところを見せないそんな彼女は今、怯えたような表情を浮かべていた。
「いいじゃんいいじゃん!せっかくの機会なんだしさ!!」
「そうそう!少人数よりも大人数で遊んだほうが絶対に楽しいって!!」
甲山さんも、そして木下さんも・・・。相手が私たちと同数でしかも体格が一回り大きな男性であるためなのか、その表情は私が見たこともないくらいに硬く、そして青白い。
「あの、その・・・」
あのともちゃんでさえ、今の状況に臆してしまって言葉を上手く発せていない。
「じゃあ、俺はこの子ね?一番胸がデカくてエロいし」
「いや、ちょっと?!」
男性たちの一人が、眞鍋さんの肩に手を置く。
「じゃあ俺は、この子で。そっちのまな板なお子ちゃまは譲るよ」
「ひっ?!」
男性たちの一人が、ともちゃんの手を無理矢理掴む。
(・・・・・)
周りにはたくさん人がいるはずなのに、その人たちは面倒事を避けるべく足早に遠ざかっていく。ここの騒動にチラッと視線を向けてはすぐに視線を逸らし、まるで何事もなかったかのように立ち去っていく。
私たちの周りだけ、ポッカリと異様な空間ができてしまっている。誰も彼もがこの空間から距離を取り、そして、自分たちだけの日常へと戻っていく。
誰も、助けてくれない。こんな時に頼れるはずのスタッフも、周囲の喧騒のせいなのかこちらの騒動に気付いた様子はない。だから・・・。
「あの、ヤメてもらえます?迷惑なんですけど?」
「ん?」
「その手、放してもらえます?」
好き勝手する男たちを睨みつけながら、私は立ち上がる。
「今すぐその手を放して、ここから離れてください」
「・・・・・。もしも、嫌って言ったら?」
「そしたら、スタッフを呼びます。大声で」
私の言葉を聞いた男たちは、なおもその態度を改めない。彼等は相も変わらずともちゃんたちの体へと無遠慮にその手を伸ばし、ニヤニヤとした表情を浮かべていた。
「俺たちはただ、一緒に遊ぼうって誘っただけなんだけどなぁ~?」
「そうそう!それにほら、他の子たちは抵抗しないしさ?」
男たちの一人が、眞鍋さんの胸を水着の上から揉みしだく。もう一人の男が、ともちゃんの水着の下へとその手を伸ばす。
「痴漢でーーーーっす!係員さぁーーーーん!!」
ブチリ、と、私の中の何かが切れた。私はスタッフが待機しているであろう方向に叫びながら、テーブルの上にあった氷入りコップを男の顔目掛けて思い切り投げつける。
「ちょ?!痛て?!」
ともちゃんに狼藉を働こうとしていたその男は、怯んでその手を放す。
「あんたも!あんたも!!」
手の届く範囲で片っ端から空の容器をデタラメに投げ付け、そして・・・。
男たちは、去っていった。声を上げながら走り込んできたスタッフを見て、流石にマズいと思ったのだろう。
「「「「「・・・・・」」」」」
応援のスタッフを呼ばれて取り囲まれ、そのまま何処かへと連行されていく男たち。そんな様子を遠くに見ながら、私は未だにガタガタと震えるイツメンたちを落ち着かせるべく奮闘するのだった。