第177話:ナンパ
プールサイドに設置された休憩スペースに、カラフルな水着で彩られた女子が五人。そのうちの一人である私は真っ白なテーブルの上に置かれたこれまたカラフルな飲食物を眺めながら、残る四人の女子たちの会話に耳を傾けていた。
「夏と言えば、やっぱクリームソーダじゃない?」
エメラルドグリーンの液体に浮かぶ真っ白なバニラアイスを突きながら、甲山さんは満面の笑顔を浮かべている。
「いやいやいや、夏と言ったらやっぱ焼きそばでしょ!!」
口元を銅色のソースで汚しながら、眞鍋さんはそう叫ぶ。
「飲み物買いに行ったのに、何で食べ物買ってるのよ・・・」
「いや、飲み物も買ったし?」
「そうそう。それにクリームソーダは飲み物だよ?」
私はもう残り僅かとなったコーラをチビチビ飲みながら、呆れたような表情を浮かべるともちゃんの方へと視線を向ける。
「ん、何?」
「いや、別に・・・」
私は慌ててその視線を空になってしまったコップへと向け、残った氷を無意味にストローで突く。うぅ~、気マズい・・・。
「それにしても、人が多いねぇ~」
「まあ、夏休みだしねぇ~」
一応本日は平日であり、子供たちはともかくとして大人の多くは仕事だったりするのだろうけれど・・・。
「家族連れも多いねぇ~」
「まあ、夏休みだしねぇ~」
プールではしゃぐ子供連れのカップルを見るともなしに眺めながら、彼女たちはのんびりと買ってきたドリンクを啜っている。
「昔は家族で海とか行ったなぁ~」
そう呟きつつ懐かしそうに目を細めるのは、眞鍋さん。彼女が行ったその海は果たして日本の海なのか、ちょっとだけ気になるところではある。
「そうだねぇ~。私も家族でお祭りとか行ったなぁ~。そこで金魚すくいとかして、楽しかったなぁ~」
溶けてしまったバニラアイスを名残惜しそうに眺めながら、甲山さんが呟く。お祭りかぁ~、懐かしいなぁ~。
「昔は、私もなっちゃんたちと遊びに行ったよね?キャンプとか」
「うん、そうだね」
「懐かしいね」
「うん・・・」
私たちがまだ本当に小さかった頃、あれは確か、まだ私たちが小学校に上がったばかりの頃だったかな?私は両親と共に陽介やともちゃんの家族と一緒にあちこちへと出掛け、色々な経験をしたのだ。
だけれど、私たちの年齢が上がるとともに私の両親は仕事を優先するようになり、長期休暇中の私は陽介かともちゃんの家で過ごす機会が増えた。日中は土日祝日関係なく家を空けざるを得なかった両親に対して子供心に思うところはあったのだけれど、陽介やともちゃんがいたので寂しくはなかったんだよね。
(ともちゃん・・・)
小さい頃から実の妹のように接し、一緒のお風呂に入ったり一緒の布団で眠ったり・・・。そんなともちゃんから、まさかガチの告白をされる日がくるなんて・・・。
私は、何かを間違えてしまったのだろうか?どこで間違えてしまったのだろうか?私は、ともちゃんを悲しませたくなんてなかったのに・・・。あの頃のまま、ただ仲良くしていたかっただけなのに・・・。
ドリンクを啜り、楽しげに会話する皆の顔を順繰り眺めながら、私は一人アンニュイな気分に沈んでいく。どうすればいいのか、どうすればよかったのか、答えのない虚無な問答に一人頭を悩ませる。
「君たち可愛いね。もしよかったら、俺たちと遊ばない?」
・・・・・。ん?
「俺たちも丁度休憩しようってなってさ。隣、座ってもいい?」
聞き慣れない男性の声に私が顔を上げると、そこにはニヤニヤ顔の男性たちと、虚を突かれたような皆の顔が・・・。
「「「「「・・・・・」」」」」
せっかくの楽しいハズの休日に、暗雲の予感である・・・。