第176話:小休憩
私たちが遊びに来た屋内型のプール施設は、夏休み期間中ということもあり親子連れマシマシのたくさんの人たちで賑わっていた。彼等は皆思い思いの水着でその体を包み込み、それが真っ青なプールの水面をカラフルに彩っている。
そんな人たちに混ざって華やかな水着に身を包んだともちゃんたちは、プールの中ではしゃいでいた。部活やら厳しい懐事情の関係で中々思い切った遊びができていなかったから、皆テンションが爆上がり中なのだ。
一方で私は持ち前の体力の無さと人酔いにより、現在小休止中である。私同様に小休止中だった木下さんは現在ドリンクを買うべく旅立っており、私はそんな彼女を待ちつつイツメンたちの方へと視線を向けていた。
「ねえ、なっちゃん」
「ん?」
「ともっちと、何かあった?」
「・・・・・」
プール際に設置された休憩スペースで一息入れていた私の元に、際どい水着姿の眞鍋さんがやって来る。
「夏休みに入るちょっと前辺りから、様子が変だったからさ」
「・・・・・」
「喧嘩とかならまあ、様子見しとこうかなって思ってたんだけど・・・。なんかそれも違うみたいだし」
立派な豪邸に住まう割にお嬢様らしからぬ言動の多い眞鍋さんは、そう言って私の顔を覗き込む。
「ともちゃんからは、何か聞いた?」
「ううん。一応それとなく訊いてはみたんだけど、はぐらかされた」
「そっか」
「・・・・・」
私がともちゃんからの告白を断ったのは、もうだいぶ前のことになる。夏休み直前に私自身の言葉によって終わらせてしまったその恋について、私は語るべきなのだろうか?
「ともちゃんが何も言ってないのなら、この件については私の口からは言えない、と思う」
「・・・・・」
「何ていうか、その・・・。申し訳ないんだけど・・・」
「・・・・・」
表面上は、今まで通りに接しているつもりでいた。あの日の翌日も私はいつも通りともちゃんと一緒に登校し、いつも通りともちゃんたちと過ごしたのだ。
とはいえ、グループの中では新参者の私はともかくとしてともちゃんと眞鍋さんたちは小学校時代からの長い付き合いであり、それ故に私たちの間に生じた僅かな変化を彼女たちは敏感に察していた。それは私も薄々勘付いてはいたのだけれど、事が事だけにどうすることもできずに今日までズルズルときてしまったのだ。
「どうにも、ならないの?」
「・・・・・。分からない・・・」
「私たちにできることは?」
「・・・・・」
心配そうな表情の眞鍋さんが、再度私の顔を覗き込んでくる。そんな彼女に対し、私はただただ曖昧な笑みを浮かべることしかできない。
「そっか」
「・・・・・」
「じゃあ、話せるようになったら、その時にでも聞かせてよ」
「・・・・・。うん・・・」
それっきり、私たちの会話は止まってしまった。私たちは二人揃ってぼんやりとプールの方を眺め、そんな私たちの元へと両手にドリンクを持った木下さんが戻ってきた。
「お、さっちんも休憩?」
「うん。そんなところ」
「向こうでドリンク売ってたから、何か買ってくれば?」
「ふ~ん?なら、三人で行ってこようかな」
そう言って席を立ち、プールではしゃいでいた残る二人を連れ眞鍋さんは去っていく。
「いやぁ~、夏ですなぁ~~」
のんびりとそう呟く木下さんと共にドリンクをチビチビ飲みながら、私は三度その視線をカラフルな水面へと向けるのだった。