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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第九章:とある恋の結末
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第174話:回想

 久しぶりに上がり込んだ陽介の部屋に、カチャカチャとコントローラーのボタンを叩く音が響く。


「「・・・・・」」


 私も陽介もその視線は目の前にある画面へと固定され、その画面には勝者と敗者の名前がデカデカと表示されていた。


「ちょっと、飲み物取ってくる」


 そう言って、勝者である陽介は空になったコップを手に持ち部屋を出ていった。


「・・・・・」


 一方で、もう何度目になるのかも分からない敗者となった私は、ただただ茫然と画面を眺めていた。


「はぁ・・・」


 まあ、陽介たちにゲームで勝てないのはいつものことである。だから私は全く気にしていないし、別にこんなことで機嫌を悪くしたりなんかしない。


「ちっ・・・、クソがっ・・・」


 おっと、イケナイイケナイ・・・。


「心を落ち着かせて、冷静にならないと・・・」


 私はコントローラーを床へと置き、陽介の部屋を何ともなしに眺める。


「この部屋は、あの頃から変わらないな・・・」


 名前の分からない筋トレグッズが転がり、どことなく男臭い部屋。それは小さな頃から大きく変わっておらず、いつの間にか母親の手によって乙女っぽさが増してしまっていた私の部屋とは違い、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる。


「もう、十六年になるのか・・・」


 近くにあった筋トレグッズを手に取り、私は呟く。


「私たちが出会ってから、もう十六年も・・・」


 私と陽介は、所謂幼馴染である。その関係は私たちがオムツをしていた頃にまで遡り、我が家のアルバムにはもう一人の幼馴染であるともちゃんも含め仲良く三人一緒に写っているものが多い。

 元々私の両親と幼馴染たちの両親は友達だったらしく、住居も近かった影響でなおのこと仲が良かった。なので仕事が忙しかった両親の都合上私は両家に預けられる機会も多く、血の繋がった兄弟同然に育てられたのである。


 誕生日が一番早く体が大きかった陽介が長男、次に生まれた私が次男、そして最後に生まれたともちゃんが末っ子。そんな感じで三家族の大人たちから私たちは等しく愛情を注がれた。そうした環境下故に私は自然と陽介のことを兄のように慕い、ともちゃんのことを実の妹のように可愛がっていたのだ。

 その関係性は私たちが中学生になっても続き、私が例の事件によって従妹の雪ちゃんの家へと居候するまでの間変わらなかった。私にとって陽介は誰よりも頼りになり信頼できる兄であり、ともちゃんはお転婆な妹であり、大切な家族であったのだ。


 だけれども、そんな関係性にも変化が訪れた。訪れてしまった。それは誰かが望んだわけでもなく、唐突にその時が来てしまったのである。


 それは私が十四歳になったばかりの夏、中学二年生の夏休み。私は突然来るはずもない初潮に見舞われ、自身が女であったという事実を突きつけられたのだ。

 それまでは当たり前のように男として過ごし、周りにもそのように振舞ってきた。小さな体と非力な筋肉を精一杯使い、私は誰よりも男らしく振舞ってきたのである。


 体の大きかった陽介と共に、公園を駆け回りやんちゃした。私よりも身長が高かった妹分のともちゃんに喧嘩で負け泣かされつつも、私は実の兄のように振舞った。

 だって私は男の子だったから・・・。陽介が口癖のように言っていた男とはかくあるべしを真似して、私も頑張っていたのである。その結果、何故か私は男の子グループからハブられ女の子たちと一緒に遊ぶことに・・・。うぅ~む、解せん。

 

 とにもかくにも、そんな感じで立派な男子であった私は突如として女子になってしまった。医学的にはそもそも初めから女子であったらしいのだけれど、だったらあんなもの付けないでほしい・・・。

 あれのせいで私は本来であれば不要であったハズの手術を受け、肉体的にも精神的にも大きな苦痛を受けることとなった。そのことで思い悩み、一時的なことではあったのだけれど幼馴染たちとも距離を取ることになってしまった。


 あの頃は、辛かった・・・。本当にキツかった・・・。従妹の雪ちゃんとその友達の支えがあったとはいえ、本当にしんどかった・・・。

 慣れない女子グループ内での遣り取りや、同室での着替え・・・。一緒にトイレへと向かったあの時、どれほど気マズく心苦しかったことか・・・。


 そんな困難を乗り越え、幼馴染たちとも距離を戻し・・・。そうやってようやく訪れたハズの平穏はだがしかし、ともちゃんの告白を断ったことで再び崩れてしまった。


「・・・・・」


 いつの間にか戻ってきていた陽介に、私は視線を向ける。


「ほい」

「・・・・・。ありがとう」


 陽介との関係も、いつかは変わってしまうのだろうか?ずっとあの頃のままでは、いられないのだろうか?


「どうする?もう一戦するか?」

「・・・・・。うん、する」


 先日、目の前にいる幼馴染は、同じクラスの女子からの告白を断ったらしい。「他に好きな人がいるから」と言って・・・。


「次は、負けないから」

「お、おう・・・」


 いつも優しくて頼りになって、いつもいつも私の味方でいてくれる兄貴分・・・。そんな私たちのお兄ちゃんである陽介は、最後までいつもと変わらぬ飄々とした態度のまま終始私を画面内で甚振り続けていた。

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