第169話:答え・・・
結局その日も、特に進展はなかった。私はいつも通りともちゃんと二人で校門を抜け駅へと向かい、そして家の前へと辿り着いた。
「ねえ、ちょっとだけ寄っていってもいい?」
「え?うん、別にいいけど・・・」
今の時間なら、母さんたちもまだ学校だろうし。今日は買い物の予定もないし。
「お邪魔します」
「・・・・・」
何だろう、何故か妙に緊張する。ともちゃんを部屋に招待したことは今まで数え切れないくらいあるし、招待するまでもなく勝手に上がり込んでくるからこのシチュエーションは今更なんだけれど。だけど今は、何ていうか・・・。
「「・・・・・」」
荷物を置いた私は適当な飲み物を用意すべく、一度部屋を出る。とりあえず、麦茶でいいかな?
「おまたせ。麦茶で大丈夫?」
「うん。ありがと」
・・・・・。
「あの・・・」
「・・・・・」
「その・・・」
「・・・・・」
空気が、重い。別にケンカとかしてるわけじゃあないはずなのに、謎に空気が重い。
「何か、話したいこととかあった?」
「・・・・・」
「えぇと・・・」
「・・・・・」
ともちゃんは私が運んできたコップへと口を付け、そしてようやくその視線を私へと向けた。
「私さ、なっちゃんに告白したよね?」
「・・・・・」
「しかも、一回だけじゃなくてさ」
「・・・・・」
ともちゃんの口から飛び出してきたのは、私がもっとも聞きたくなかった言葉であった。それは私が、今まで意図的に避けてきたことで・・・。
背中に、嫌な汗が流れるのを感じる。それは夏の暑さからくるものではなく、何か別の、底知れぬ恐怖からくるもので・・・。
「陽介の件は、まあいいよ。私もちょっとだけ気になるしさ」
「・・・・・」
「でも、何ていうかさ。私の告白について、あれから何もないし」
「・・・・・」
ともちゃんの咎めるような視線が、私の心臓を鷲掴みにする。言葉以上の何かを語るその瞳が、私の体を硬直させる。
「私もさ、あの告白が受け入れられるとは思ってないっていうか・・・。私、ダメな女だし・・・」
そんなことは・・・。ともちゃんはダメな女の子なんかじゃ・・・。
「だけどさ、なっちゃんも大概酷いよね?ここまで答えくれないし、ずっと引き伸ばしにしてさ」
「ともちゃん・・・」
私は、私は・・・。
「最後に、もう一回だけ言うね?私は他の誰でもなく、なっちゃんが好き。男とか女とか関係なく、私はなっちゃんのことが好き。勿論、恋愛的な意味で」
ともちゃんはそれっきり、黙ってしまった。
「「・・・・・」」
何か、何か言わないと・・・。ちゃんと、今度こそ答えないと・・・。
「私は、私は・・・」
喉が、乾く。次々と溢れてくる汗で、体中が不快だ。
「ともちゃん、私は・・・」
正直、怖い。答えを出すことで、ともちゃんとの関係が終わってしまうのが。
とても怖い。私が言葉を発することで、ともちゃんを悲しませてしまうことが。でも・・・。
「私は、ともちゃんのことが好きだよ」
「?!」
「でも、それは友達としてっていうか、家族としてっていうか」
「・・・・・」
だから・・・。
「ともちゃん、ごめんなさい。私は、ともちゃんとは付き合えない」
「・・・・・」
「ともちゃんとは、これからも友達として、家族として一緒にいたい」
「・・・・・」
私の言葉に対してともちゃんは小さく頷き、部屋を出ていった。そしてそんな彼女を、放心したままの私は追い掛けることができなかった。
「・・・・・」
彼女の告白を受けてから、もうどれほどの季節が流れたのだろうか・・・。ようやく返せた彼女への答えは私たちの関係性を大きく変化させ、そして、私の中の何かを決定的に変えてしまうのだった。