第165話:勘違いの連鎖
「何ていうか、ゴメンね?甲山さんから聞いたんだけど、昨日大変だったって」
昼食後の昼休み時間、私は新地君に謝罪をしていた。トイレ帰りの人通りがない廊下で偶々バッタリと出会ったので、今がチャンスとばかりに彼を近くの空き教室へと引っ張り込み頭を下げたのである。
「いやまあ、あれは誰が悪いってわけじゃあないからさ・・・」
私の謝罪を受けた新地君は、そう言ってフォローしてくれる。
「でもまあ、確かにタイミングは最悪だったな・・・。ようやく落ち着いてきた深山の件も再燃したし、何故か俺が一色から好意を寄せられてるんじゃないかって詰められたし・・・」
しかしながら続けざまに彼はそう言葉を発し、私は再び頭を下げることとなった。
「昨日あそこに来たのは、本田の件だろ?」
「え?」
「新島が本田のところに来るんじゃないかって、そう思ってああしたんだろ?」
「・・・・・」
新地君の問い掛けに、私は小さく頷く。
「そっか・・・」
「・・・・・」
「本田のこと、本気で好きなんだな・・・」
「・・・・・」
何か、あらぬ勘違いをされている気がする。私は陽介のことが好きだけど、それはあくまでもLIKEであって、決してLOVEなんかではないのだけれど。
「ちょっとだけ、思い出したことがあるんだ」
「え?」
「最近は全然見ないんだけどさ、体育祭の前だったかな。長髪の女子生徒が、何回かサッカー部の練習を見に来てた時期があってさ」
それって、もしかして・・・。
「多分だけど、その子が新島なんじゃね?俺も顔を知らないから絶対じゃないけどさ」
「・・・・・」
「でも最近は全然見掛けないから、つまりそういうことなんじゃね?告白を断られたから、来なくなったんじゃね?」
「・・・・・」
新地君は、私のことを元気付けようとしてくれているのだろうか?私が陽介LOVEだと勘違いした彼は、私のことを励まそうとしてくれているのだろうか?
「これ以上のことは、俺も本当に知らない」
「新地君・・・」
「だからまあ、ここから先は自分でどうにかしてほしいっていうか・・・。まあ、頑張れよ?」
出会った当初は私のことをチビだのチビ助だのと揶揄ってきた新地君ではあるのだけれど、彼は思いの外優しい性格であるらしい。何やかんやで彼には助けられたし、ヤンデレ気味な小林さんの件さえなかったならば、もう少しだけ仲良くできたかもしれない。
「さて、それじゃあそろそろ戻るか。こんなところを誰かに見られでもしたら、それこそ変な勘違いをされるだろうし」
新地君はそう言って、空き教室の出口へと向かう。
「今回は人がいなかったからいいけどさ、一色も、もうちょっと考えて行動してほしいっていうか」
「いや、何ていうか、ほんとスンマセン・・・」
廊下に人がいないことを確認し、私たち二人は素早く空き教室をあとにする。そしてそのまま二人して自分たちの教室へと向かい・・・。
「新地、おまえ・・・」
私たちの教室前の廊下で茫然とした表情を浮かべているのは、深山君。彼は何故、ここにいるのでしょう?
「俺は、信じてたのに・・・」
「「え?」」
「俺は、信じてたのにぃ~~?!」
「「・・・・・」」
物凄い勢いで、彼は廊下を駆けていく。そんな深山君の背中を茫然と眺めながら、私は近い未来に訪れるであろう災難を思い、頭を抱えるのだった。