第164話:もらい事故
私たちがサッカー部の練習場所へと突撃したその翌日、私の取った意味不明な行動の理由はともちゃんによって呆気なく皆に暴露された。そしてそれを聞いたイツメンの四人は思案顔で私のことを見ており、私は今非常に居心地が悪い。
「なるほどねぇ~、あの本田君に彼女がねぇ~?」
一人納得したように、眞鍋さんは頷く。いや、まだそうと決まったわけじゃないから・・・。
「夏姫ちゃん、いつも本田君と一緒にいたからねぇ~。そっかぁ~、お兄ちゃんを取られて焼きもち焼いちゃったかぁ~」
訳知り顔で、甲山さんも頷く。いや、別に焼きもちなんかじゃ・・・。
「その本田って人、夏姫ちゃんと仲良いの?」
「うん。中学時代は大体いつも一緒にいたよ」
「ふ~ん、そうなんだ?」
彩音ちゃんからの意味深な視線が、怖い・・・。
「てか、気になるんだったら陽介に直接訊けばいいじゃない?」
「い、いやぁ~、それは・・・」
ともちゃん、それは何ていうか、そのぉ・・・。
「もぉ~、知美は解ってないなぁ~。そんなの訊けるわけないじゃん!!」
「えぇ?何でよ・・・」
「だって、ずっと思いを寄せていた人がいつの間にか彼女作ってたんだよ?それはもうヤバいって!!」
「「「「・・・・・」」」」
真鍋さんは、一人で盛り上がっていた。いつになくピンク脳な彼女は私の肩を抱き寄せ、「ドンマイ!!」と嬉しそうに叫んでいた。
「これで、私たちは仲間だね?」
「え、仲間?」
「そう。フラれた者同士、仲間!!」
「・・・・・」
私は眞鍋さんの腕を強引に解きながら、彼女からそっと距離を取る。別に、フラれたわけじゃないし?
「もう!さっちんはすぐそっちの方に持っていきたがるんだから!!」
「だって、だって・・・」
「フラれたのは、アンタだけだから!夏姫ちゃんは、別にフラれたわけじゃあないから!!」
「そんなぁ~~?!」
一人暴走する眞鍋さんを諫めた甲山さんが、私の方へと向き直る。
「もう一度確認するんだけどさ、昨日突然サッカー部見にいくって言ってたのは、本田君のことが気になったからなんだよね?もしかしたら、その女子生徒が本田君のことを応援しに来るかもって」
思案顔のままの甲山さんが、私にそう問い掛けてくる。いやまぁ~、当たらずとも遠からずっていうか・・・。
「そっかそっかぁ~。じゃあ、ちょっとミスっちゃったかなぁ~」
そう言って、甲山さんは胸の辺りで両手を合わせたまま私に頭を下げてくる。
「いやさ、昨日夏姫ちゃんたちが帰ったあと、私質問攻めにあったんだよね?あの二人は何でここに来たんだって」
それは・・・、申し訳なかったっていうか・・・。
「深山のことが気になったのかとか、深山に再チャンスはあるのかとか、しつこくてさ。だから私、言っちゃったんだ。夏姫ちゃんは深山のことじゃなくて、他に気になる人がいて、その人のことを見に来たんだって」
それは、とても誤解を与えそうな表現で・・・。ある意味間違ってはいないのだけれど、でも非常にマズい言い方なのでは?
「美月、あんた・・・」
「て、テヘペロ?」
「「「「・・・・・」」」」
「えへ?えへへ・・・」
甲山さんの乾いた笑い声が、辺りに木霊する。とはいえ元はと言えば私が詳細を語らずに動いたことが原因なので、寧ろ被害者ですらある彼女を責めることはできない。
「でも、きっと大丈夫!具体的な相手についてはちゃんと誤魔化してきたから!!」
「「「「・・・・・」」」」
「ただ、同じクラスってことで新地君がちょっと詰められてたみたいだけど、きっと大丈夫なハズ!それと深山が物凄く落ち込んでいたけど、それはまあドンマイってことで!!」
「「「「・・・・・」」」」
私が考え無しに動いたばかりに、事は思わぬ方向へと動いてしまっていた。私がそっと顔を向けた先にいた新地君は私の視線に気付くと恨みがましい視線を返してきて、それを見た私は心の中で平身低頭しながら声無き謝罪を繰り返すのだった。