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コンプレックスガール  作者: ぴよ ピヨ子
第九章:とある恋の結末
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第163話:偵察

 その光景は、どこか懐かしさを覚えるものであった。私自身も中学二年生の一学期までは男子としてサッカー部に所属しており、レギュラー陣が練習をしている場所から遠く離れた隅っこで他の補欠組と仲良く筋トレとか走り込みをしていたものである。

 あの頃は勝利至上主義の池田いけだ先生指導の下にサッカー大好きっ子たちが張り切っており、私は入るべき部を間違えたかなと首を捻りつつも毎日サボらず練習にだけは参加していた。そんな私が件の日までサッカー部を続けられたのは偏に陽介の存在が大きく、彼が私含めたサッカー下手たちを気に掛けてくれていたからなのだ。


「何ていうか、思ってたよりも地味ね」


 私と一緒にサッカー部の面々を眺めていたともちゃんは、そう独り言ちる。


「サッカー部なんだから、もっとボールを使った練習とかすればいいのに」

「・・・・・」


 サボり魔だった元バドミントン部のともちゃんは、運動部の現実を解っていない。グラウンドにはサッカー部だけでなく野球部や陸上部の部員たちもたくさんいて、彼等は常に苛烈な練習場所の取り合いを余儀なくされているのである。

 だからつまり、彼等はボールを使った練習をしないのではなく、できないのだ。グラウンドでの配置を見るに本日は陸上部が優先的に場所を使える日らしく、サッカー部と野球部の面々は隅っこの方で筋トレと走り込みとその他細々とした練習に注力していた。


「おっ、陽介発見!あとはぁ~、深山と内田も発見!!」

「・・・・・」


 私たちの視線の先では、顔見知りたちが上級生の指導の下頑張っていた。未だに(仮)状態の陽介も、ここから見ている限り何だかんだで楽しそうである。


「てか、本当に何しに来たのよ・・・。まさか、陽介の応援に来たわけじゃあるまいし。あんまり長くここにいると目立つし、マズいんじゃないの?」


 ともちゃんの言う通り、グラウンドの隅っこに立つ私たちの姿は思いの外に目立つ。体操服へと着替えた彼等とは違い、私たちは制服姿のままだから。

 彼等から少し離れた場所でボールを磨いているマネージャーの甲山さんでさえ体操服に着替えているし、それにチラチラと私たちの方に視線を向ける部員の姿も・・・。


「おい、あの子・・・」

「もしかして、深山の?」

「でも、何でここに?」

「もしかして、深山にチャンスが・・・」


 風に乗った彼等の呟きが、薄っすらと聞こえてくる。このままこの場所に留まり続けると、あらぬ誤解を招きそうである。


「帰ろっか?」

「え?」

「これ以上ここにいても意味無さそうだし」

「・・・・・」


 ここに来れば、ワンチャン新島さんに会えるかもと思っていた。上月こうづき先輩目当てで毎日のようにテニスコートへと足を運んでいた眞鍋さんのように、もしかしたらと・・・。

 でも、今思うと中々に浅慮だったなと反省している。そもそも私は新島さんの顔を知らないし、仮に知っていたとしても実際に会った時に何を言えばよいというのか・・・。


「あれ、もう帰るの?」

「う、うん。邪魔しちゃ悪いし」


 甲山さんに軽く声掛けをし、私たちは荷物を回収するために教室へと戻る。そしてそのまま駅のホームへと向かい、そして・・・。


「ちょっと、私の部屋に来なさいよ」


 電車を降り、家の前まで辿り着いた私の腕をともちゃんはそう言いながら引っ張る。


「ねえ、なっちゃん、何があったの?」

「・・・・・」

「ねえ?」

「・・・・・」


 私が取った意味不明な行動に、ともちゃんは困惑していた。そしてそれと同時に、その理由を話さない私に対して怒ってもいた。


「何ていうかさ、今日の昼休みが終わった辺りから様子が変だったから」

「え、えぇと・・・」

「ねえ、何があったの?誰かから嫌なことでもされた?」

「・・・・・」


 部屋へと連れ込まれ、そのままベッドの上へと押し倒され、私は絶賛ピンチである。


「ねえ、なっちゃん?」

「いや、あの・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」


 そうしてベッドの上で抑え込まれること約五分後、私は実に呆気なく、事の経緯をゲロったのであった。

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