第162話:相談
その日の授業が全て終わり、短い帰りのホームルームもたった今終わった。いつもであれば私はともちゃんと共に一直線に家へと向かうのだけれど・・・。
「え?サッカー部の見学?」
「う、うん・・・」
サッカー部のマネージャーにして私の秘密を知る数少ない女子生徒の一人、甲山さんに私は恐る恐る声を掛ける。
「いや、別にいいんだけどさ。何でまた急に?」
そう言って、甲山さんは首を傾げる。
「特に理由は無いんだけどさ。何となく?」
「えぇ・・・」
他にもっと上手い言い方があったとは思うのだけれど、如何せん行き当たりばったりな行動だったのだ。私は適当な言い訳すら考えておらず、それ故に私の口から出てくるのは曖昧な言葉ばかり。
そんな明らかに様子のおかしい私を、甲山さんは胡乱気な眼差しで見ている。そしてそんな私たちの元へと、イツメンが集まってきた。
「なっちゃん、何かあったの?」
「いやぁ、別に?」
「何もないのに、わざわざサッカー部見に行くの?サッカー部には深山君もいるのに?」
「・・・・・」
ともちゃんの心配そうな視線と、いつもながらに鋭い彩音ちゃんの指摘が痛い・・・。
「ふ~ん?なるほどねぇ~?」
「・・・・・」
何がなるほどなのかは分からないけれど、眞鍋さんは一人納得したように力強く頷きながら私へと体を寄せてくる。
「もしかして、気になる人でもできた?」
「え?」
「ほれほれ、お姉さんにだけコッソリと教えてみ?」
「・・・・・」
私は今、四人の女子によって取り囲まれている。この状況ではコッソリも何もなく、眞鍋さん以外の三人にも丸聞こえになってしまう。
「いや、本当に何もないんだって!!ただちょっと、見てみたいだけっていうか」
「「「「・・・・・」」」」
「だから、他意はないっていうか」
「「「「・・・・・」」」」
私を取り囲んでいたともちゃんたちが、私からそっと距離を取る。そのまま四人で円を作って、コソコソと話し始めた。
「ねえ、どう思う?」
「いや、どうもこうも・・・」
「これってもしかしなくても、恋の予感?!」
「いや、違うと思うなぁ・・・」
放課後の教室でワチャワチャする私たちを置いて、他のクラスメイトたちは部活動や帰宅のために散っていく。その中には事の発端でもある新地君の姿もあって、彼はどこか呆れたような視線を私へと向けながら教室から出ていった。
「・・・・・」
何だろう、この胸の動悸は・・・。何だろう、このこっ恥ずかしさは・・・。
私は急ぎ新地君から視線を逸らしながら、未だに円陣を組んだまま話し合いを続けるともちゃんたちへと視線を戻す。
「とりあえず私は部活があるから、報告はともっち宜しく」
「えぇ?私?!」
「他に誰がいるのよ。彩音も部活だし、美月だってマネージャーだし」
一先ず、彼女たちの話し合いは終わったようだ。眞鍋さんと彩音ちゃんは荷物を持って部活へと向かい、教室には私とともちゃん、そして甲山さんだけが残された。
「どういうことなのか、あとで話を聞かせなさいよね・・・。いい?」
「ハイ・・・」
不機嫌そうな態度を隠しもしないともちゃんに背中をどつかれながら、私は教室を後にするのだった。