第161話:ニイジマ コハル
ここから第九章(161話~180話)となります。前章で早い展開になるかも?とか言いつつ実際は相も変わらずのんびりゆっくりだよ・・・。でもいいんだよ、これでいいんだよ・・・。
鬱陶しい小雨の多かった六月も終わり、今は夏休みまであと数日と迫った七月のとある昼休み時間。私は同じクラスの男子でありサッカー部員でもある新地君と共に、人けのない空き教室にいた。
「人伝に聞いた話だから、俺も詳しいことは知らないんだけどさ」
「うんうん」
「その本田って奴に告白したのは、同じ一年の新島 小春らしい。クラスは本田たちと同じBクラス」
「・・・・・」
その話を知ったのは、本当に偶然だった。本日は偶々日直で、その相方が偶々新地君で・・・。担任の先生から頼まれた雑用が終わり、教室へと戻っていた際の雑談でちょっと気マズくなって・・・。
その空気を変えようと新地君が何故かその話題を振り、それで私は幼馴染である陽介が六月中旬に行われた体育祭の時に女子から告白を受けていた事実を知ったのである。
「ニイジマ、コハル・・・」
「そう、新島 小春。新しい島に、小さな春って書いて新島 小春」
新地君から聞かされたその名前に、私は聞き覚えがなかった。
「新島さんって、どこ中出身なの?」
「いや、そこまでは・・・」
「見た目は?どんな感じの子?」
「・・・・・」
戸惑う様子の新地君に、私は詰め寄る。いやまさか、あの陽介が私に隠し事をするなんて・・・。
「さっきも言ったけどさ、これは人伝に聞いた話だから、俺もそんなに詳しくは知らないんだよ」
「えぇ・・・」
「元々は同じサッカー部の内田って奴から聞いた話で、その内田もBクラスなんだけどさ」
「・・・・・」
私が深山君から告白を受けていたあの時間、陽介もまた告白を受けていたらしい。私がクラスメイトたちから生暖かい視線を向けられながらアワアワしていたあの時、陽介もまたBクラスの面々の視線を一身に受けながら戸惑っていたのかもしれない。
「その告白は、当然断ったんだよね?」
「え?」
「断ったんだよね?」
「・・・・・」
ね?
「いや、そこまでは知らないっていうか・・・。俺が聞いたのは、その本田って奴が新島って女子から告白されたってところまでで・・・」
何でだよ?!何でそこを聞いてないんだよ?!そこが一番大事なとこじゃん?!ねぇ?!
「いや何でって言われても、別に興味なかったし・・・。内田って奴も事細かに話してたわけじゃなくて、皆から揶揄われる深山を眺めながら『そういえばウチのクラスの本田もぉ~』って感じで軽く話した感じだったし・・・」
そう言いつつ、新地君は私に胡乱気な視線を向ける。
「てか、一色と本田って知り合いだったんだな?」
「え?」
「だって、そこまで気にするってことは顔見知りなんだろ?」
「・・・・・」
いや、えぇと・・・。
「とにかく、俺はこれ以上の事は知らない。気になるんだったら、本人に直接訊いてみたらどうだ?」
「う、それは・・・」
陽介がこの事を私に話さなかったってことは、つまり知られたくなかったからで・・・。それを無理矢理聞き出すのは・・・。
「てかこの反応、まさか・・・。一色、お前、本田のことが好きなのか?」
「え?」
「違うのか?」
「いや、その・・・」
新地君からの突然の問いに、私は困惑する。
(今まで陽介とは明け透けに接してきて、あまり隠し事はされなかったっていうか・・・。だから、ちょっと気になるだけっていうか・・・)
心の中で、私は誰にともなくそう呟く。陽介のことは好きだけど、それはLOVEじゃなくてLIKEの方っていうか・・・。
「いやまあ、別にいいけど」
「・・・・・」
「てか、そろそろ戻ろうぜ?次の授業が始まっちまう」
「・・・・・」
どことなくモヤモヤを抱えたまま、私は廊下を進む。
(新島、小春・・・)
私と同様名前に季節を冠するその女子の存在に、私の心は搔き乱されるのだった。