第16話:タイムリミット
空調の効いた乙女チックさの欠片もないともちゃんの部屋で、僕はいつもの二人とゲームに興じていた。
「知美、お前少しくらいは宿題進めたのか?」
「いや、全然全く微塵も進めてない」
陽介の問い掛けに、清々しいまでの笑顔でそう答えるともちゃん。
「そう言うあんたたちはどうなのよ?」
「俺?俺はもう半分は終わらせたぞ」
「え゛?」
「夏樹だって似たようなもんだぜ?夏休み最終日まで宿題を残してるの、お前くらいだし」
「くっ・・・」
ともちゃんのお母さん、その辺については厳しそうなイメージがあるんだけど・・・。
「ともちゃんは、お母さんに何も言われないの?」
「めっちゃ言われる。昨晩も滅茶苦茶怒られた」
「それなのにしないの?」
「うん、しない。言われたからやるって、それってなんだか違くない?」
「えぇ・・・」
朝早くからともちゃんによって呼び出され、昼食時には一旦家へと帰り、そして再び彼女の部屋へと再集合し・・・。
「あははは!また私の勝ぃ~~!!」
今年で十四歳になるはずの幼馴染の女の子は、心の底から楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「お前、ちょっとくらいは手を抜けよ・・・」
同じく今年で十四歳になる幼馴染の男の子も、楽しそうにしていた。
「ねえ、なっちゃん」
「ん?」
「大丈夫?今日、何だか元気なさげに見えるけど」
「ううん、大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
そう言って、僕は無理矢理に作った笑顔を浮かべる。
「ふ~ん?そっか・・・」
そうしてその日も楽しい時間を二人と一緒に過ごし、やがて日も暮れ始めて・・・。
「あのさ・・・」
陽介と一緒に部屋を後にする僕に向かって、ともちゃんは語り掛ける。
「何かあったんなら、私たちに言いなよ?何て言うかさ、私たち、友達じゃん?」
「ともちゃん・・・」
その頬を少しだけ赤く染めながら、僕たちから少しだけ視線を逸らしながら、ともちゃんは続ける。
「また、明日ね?」
「・・・・・。うん」
「今年の夏休みは、去年以上に皆で遊び倒そうね?」
「うん、うん・・・」
ともちゃんに見送られて、僕と陽介はそれぞれの家へと向かって歩みを進める。そして・・・。
「それじゃあ、また明日な?」
「うん」
「えぇと、まあ、なんだ・・・。何か悩みがあるんなら、言えよ?」
家の扉へと手を掛ける僕に向かって、陽介はそう語り掛ける。
「最近さ、夢を見るんだよ」
「夢?」
「そう、夢・・・。真っ白な空間でさ、鬼の形相を浮かべる武井君がひたすら追い掛けてくる夢」
「えぇ・・・」
陽介に向かって、僕は悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「学校が始まったらさ、また守ってね?」
「お、おう・・・」
「僕、武井君のこと超苦手だから」
「・・・・・、なるほどな?ああ、任せとけ!!」
陽介と別れ、そのまま自室へと戻って・・・。
「・・・・・」
僕が視線を向けた先にある壁掛けカレンダーの日付は、運命の日の前日を示していた。